カテゴリー「J3リーグ」の記事

2017年3月21日 (火)

ファン重視だからこその提言

藤枝MYFCの大石監督という人は、これまでの取材などを通して「心を揺さぶる人だ」と常々思ってきたのだが、先日の対 FC東京U23戦における試合後の話を聞いて、その感じ方はやはり正しかったと確信した…

ちょうどこの試合の1週前に行われた、SC相模原 vs 長野パルセイロのゲームにも行って来たが、この試合の後半に物議を呼びそうなプレーがあった。0-1で相模原負けている中で得たセットプレーのチャンス。そしてこの場面でPA内で相模原FWと競り合っていた松原が「ファールないよ!」的に手を挙げてアピールしていたが、その次の瞬間、こぼれ球を拾った相模原の選手がシュート。なんとこのシュートが松原の手に当たったのだった。しかし主審の判定は「故意ではない」とジャッジし、ノーファールの判定でプレー続行となった。

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そして試合後、相模原・安永監督は「これは批判ではなく、あくまでも問題提起として捉えてください」と前置きした上で「故意ではないとは言え、そもそも手を挙げていなければシュートが手に当たることは無かった。手を挙げる必要性も無かったのにわざわざ挙げて当たったものは、故意、故意ではないに限らずハンドでしょ? その曖昧な基準はおかしいですよね」と話してくれていた。

そして話を本題の大石監督の件に戻そう。

実はこの試合でも物議を呼びそうなプレーが2つあった。最初は0-1とホームの藤枝が1点リードされている展開の中で迎えたCKのチャンス。ここで藤枝が同点ゴールか? というシーンが飛び出し、副審もゴール判定をする仕草を見せたが、レフリーは「ゴールラインを超えてはいない」とジャッジし、副審に確認することもなく、プレーは続行された。

これに関してゴール裏にいたので確認していたが、間違いなくインゴールだった。しかし、あのプレーの際にDFと藤枝の選手がともにもつれるかたちとなり、その反動でゴールとぶつかって、ゴールの位置が若干ズレたことが判定を難しくさせる要因にもなっていた。

そしてもう一つのプレーが、このノーゴール判定からあまり時間が経たない中で飛び出した。攻勢に出る藤枝が高いラインを保っていたが、その裏のスペースを突かれてカウンターからGKとの1対1の場面を迎えてしまう。そして藤枝GK田口が、入って来た相手選手をPA内で倒してしまった。

大石監督も試合後「あれはPKでしょうね」と語ったように、見ていた人の大半も同じようなことを感じたはずだが、主審の判定はまさかのノーファール。この二つを踏まえて大石監督は試合後、こんな意見を語ってくれた。

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「どっかのバカがさ(大石監督と安永監督は以前からの友人であり、S級取得時の同期でもある)、先週なんかまくし立てちゃったみたいだよね(笑) 気持ちはわかるけど、言い方というものはやっぱり考えないといけないと思いますよね。

でもやっぱり、彼(安永監督)の言葉じゃないですが、ジャッジはハッキリして欲しいとは思います。まあ審判も人間だから間違いはあるとは思いますし、今日の2つジャッジなんかは帳尻合わせという感じもしましたよね? だって僕がいた位置からだって「入った」のはわかりましたし。

でも僕としては「入った、入っていない」を争う訳じゃなく、副審がアピールをしていたのだから、確認ぐらいあってもいいのでは? という部分は徹底して欲しいと思います。またその後のPKなんかは、僕が見たって「やってしまった」と思いましたし、あそこで取られて2点目を失っていたら、今日は間違いなく勝てなかったとも思います。そして『たぶんそう思う』の話になりますが、その前のノーゴール判定の後だったから『取りにくいな』という心理的な部分が影響してのジャッジだったたとも思います。

でもね、帳消し的にジャッジしたらそれはいけないと思うんです。僕も選手だったから、そう思える場面は何度かありましたよ。でもね、僕は選手たちに『ジャッジの判定に異議は唱えるな』と普段の練習から言い聞かせているので、ウチのノーゴール判定には何か言うつもりはありませんよ。ただ、あのジャッジで勝ち点3を失ったかも知れないFC東京(U23)さんは浮かばれないじゃないですか? それにね、観に来てくれているお客さんに対しても、疑問を感じさせるジャッジがあるのは失礼だと思うんです。

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サッカーのゲームって、自軍の11人と相手の11人の22人で作るものではないんです。審判団の4人を含めた26人で作るものだし、26人それぞれがみんなを尊重し、信頼しあって初めて出来るものだと思うんです。そして観に来ていただいたお客さんに、いい試合を見せなきゃいけないじゃないですか? でもそんな『帳尻合わせ?』とみんなが感じるようなジャッジをしてしまったら『なんだよそれ…』と感じてしまう。

今年から審判団に対して、試合後に意見・報告出来るようになったじゃないですか? だからウチのノーゴールはともかく.「あれはPKではなかったのか?」とは質問するつもりでいます。さっきも話しましたが、負けた場合、判定に不服を唱えるというのは僕が選手に説いている『異議を言わない』の精神に反するので言いませんが、今日はとりあえず勝ったし、相手が被った不利益でもあるので質問するつもりでいます。やっぱり、ジャッジには信頼を置きたいじゃないですか?」

このように、会見とは別の場所で話をしてくた大石監督。

大石監督が言いたいのは、ジャッジ一つで勝った負けた!ではなく、あくまでも「いい試合をお客様に見てもらうために」質問するということ。そして友(安永監督)の本当に意図していた部分がわかっていたからこそ、大石監督も敢えて問題提起をしてくれたのであった。

過去にいくつかのジャッジに対して物議を呼ぶものがあったが、その大半は勝った、負けたや自軍の利益のためという側面が多かったが、今回の『大石提言』は『Jリーグ全体の発展と、ファンを大切にしたい』という思いがあるからこそ。

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こう言ってのけることが出来る、大石監督の器の大きさに感銘を受けるとともに、こんな人として素晴らしい大石監督に指導を受ける藤枝MYFCの選手が羨ましくも見えた。試合内容に関しては、まだまだな部分も多く、観客数動員でも他のクラブよりも劣ってはいるものの、地道にひとつずつ成長する藤枝のクラブの成長を、今後も見守りたい。

2017年3月20日 (月)

宇野沢祐次がもたらす「一体感」

昨日のゲームは3-0で勝利した長野パルセイロ。



スコア的には快勝かもしれないが、流れの悪い時間帯があるなど、改善すべき点もあった。しかし「改善すべき点はある」と言っても、昨年とは意味合いが全く違う。昨年は「どうするべきなのか…」であったが、今年は「もっと良くなるために」という前向きな改善点だ。



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そんな昨日の試合で、最も大きな仕事をやってのけたのは宇野沢祐次だった。昨年は6試合0ゴールと、長野に移籍してからワーストの成績で終わり、周囲どころか本人すらも「終わり」を覚悟した。しかしGMとして帰ってきたミノさんは「このクラブに絶対必要な男であり、彼抜きのクラブはありえない」と考え、今季も契約を結ぶに至った。



開幕戦こそベンチ外であったが、ホーム開幕戦となったこの試合では、満を持してのベンチ入りとなったウノ。そして71分、ついに出番の時がやってきた。しかしこの時間帯は、ラインを上げられず相手に押し込まれる苦しい展開が続いていた。こんな難しい時間帯だからこそ、ベンチは「ピッチ上に安定をもたらしたい」と考え、ウノの投入をチョイスした。



浅野監督も「彼がいるといないでは全く違います」と試合後に話したとおり、宇野沢投入後の長野は変わった。ベンチとしては当然ゴールという結果も欲しいところであったが、それ以上に「安定、安心」をもたらすことをまず求めたが、選手はウノの登場により、間違いなく「スイッチ」がはいった。そしてピッチの選手を後押しするサポーターも、宇野沢登場にボルテージは一気に上がった。そして登場から6分後に、宇野沢自身だけではなく、このクラブに関わる人、全てが待ち望んだシーンを迎えた。一度は跳ね返されたシュートを再び押し込み、約1年9ヶ月ぶりのゴールがホームスタジアムで生まれた。

ピッチ上の選手は「ウノさんがゴールを決めたんだから、絶対にこのまま勝つ!」と、それぞれ強い気持ちを持ったし、それにより厳しい時間を乗り越えることも出来た。さらにその結果として、最後に佐藤悠希のゴールも生み出すなど、ベンチが想像した以上の効果を生み出した宇野沢投入。

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しかしこれこそが、美濃部GMが「必要な選手」と言った根底にある部分でもある。彼は単なるストライカーなのではない。このクラブにおいては、唯一無二の精神的な柱でもある。彼が練習であろうと、試合であろうと、ピッチに立てば空気は変わるもの。昨年のことについては、もう今更なのでなにも言わない。ウノにしてもチームにしても「そんな時間はあるもの」なのだから。しかし今は、美濃部GMも浅野監督も「いるだけで空気を変えられる選手」と考えている。スタメンで使うのか? それとも今回のように「スーパーサブ」としての起用になるかはわからない。しかし監督にとっては、背番号10は特別な存在であり、どんな時でも「やってくれる」という強い信頼がある。

確かに冒頭に書いた通り、決していい内容ではなかったこの試合。しかし、宇野沢という柱が苦しい状況で入ったことで、チームに今年のスローガンである「一体感」というものが生まれた長野。宇野沢祐次の復活とともに、今年の長野は「違う」ということは確実にアピールできたはずだ。

2016年4月14日 (木)

新たなる挑戦に出た神川監督

先日の日曜日、やっと今季のグルージャ盛岡を見ることが出来た。

今シーズンのJ3リーグで、実は最も注目していたのはグルージャ盛岡であった。そして、なぜ注目かと言えば、関東大学リーグ、そしてインカレなどを制し、天皇杯では次々とJクラブを打ち破った学生サッカー界の名門、明治大学サッカー部を率いた、神川明彦氏が監督に就任したからである。

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明大サッカー部監督時代、「いい素材なんだが、あともうひと伸びすれば…」という選手たちを、何人も見事な選手に育て上げ、明大全盛期を確立した名将であり、大学サッカー界の主人公の一人でもあった神川明彦氏。そして大学サッカー界と言えば、流経大の中野さん、駒大の秋田さん、福大の乾さんなど、ロングランで指導を続ける名物監督が多く、神川監督もそんな先人たち同様に「永久監督」として明大に関わり続けるかと思われた。しかし、S級ライセンス取得でチームから離れる時間も増え、肩書きも「総監督」に代わり、ユニバーシアード代表監督に就任する際には、大学側に「休職届」を提出するなど、退路を断つ覚悟で次なる展開を模索していた。

そして神川監督は昨年11月、学生時代から合わせて30年という、長い月日を共にした明治大学に別れを告げ、J3リーグ・グルージャ盛岡の監督に就任という驚きのニュースが飛び込んできた。昨今ではプロ選手経験者のない人や、プロクラブでの指導歴の少ない人が就任することも珍しいことではなくなって来たが、元桐光学園の佐熊監督のプロ挑戦以来、久々に学生サッカー指導者からの挑戦者が現れた。明大サッカー部という、慣れ親しんだ場所から「立場を追われた」という訳ではなく、本人が望めばその立場は永久でもあった。しかし神川明彦は、その立場に甘んじるのではなく、チャレンジという新しい一歩を選択した。 だからこそ、この機会に「なぜそんな選択にたどりついたのか?」を聞きたかったし、メイジ全盛期を作り上げた監督が、お世辞でも強いチームとは言えなかったグルージャを、どう変えて行こうとするのかこの目で確かめたかった。

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さて、注目していた神川グルージャの新シーズンだが、ここまで3試合を終えて勝ち星ナシで最下位に沈んでいた。そして迎えた相模原でのアウェイゲームだが、結果的にスコアレスドローに終わり、この日も初勝利を挙げることは叶わなかった。しかし、貴重な勝ち点1を手にしたことで最下位脱出に成功したが、そんなこと以上に、この日見せたグルージャのサッカーは、大いに可能性を感じさせたことは勝ち点以上に大きな収穫であった。 J3に参入して3シーズン目のグルージャだが、これまでのサッカーは「どうすれば対応出来るか?」を考え抜いたリアクションサッカーをベースにやって来た。しかし神川監督はこのクラブでも、明大でやってきたハードワークしながら高いラインを保ち、自分たちが積極的にアクションを起こし、「繋いで崩して」を繰り返すサッカーを盛岡でもやろうとしている。

しかし、グルージャというクラブは間違いなく明大サッカー部の環境よりも劣る。練習環境もそうだが、ユース年代で名を馳せ、プロにも行けたのでは?と言われるような逸材が集まった明大サッカー部とは違い、グルージャはまさに雑草軍団である。神川監督が就任したからと言って、すぐにあの時代と同じような強いチームになる訳ではない。たが明大時代もそうであったが、名将と言われる裏には戦術論以上に、モチベーターとしての力量も見逃してはいけない。この日もいい流れを何度も作り、決定的場面を何度も作り出したが、なかなか得点を奪えない。そんな中で自信を失いそうになる選手に「やり切れ!」と声をかけ続けた。

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いろいろなカテゴリーを見る中で、カラーの違う監督を何人も見てきた。試合中も寡黙な表情を崩さず微動だにしない人、感情を露わにして動き回る人、状況を判断してその都度細かな指示を出す人、すぐに怒ってしまう人…本当に監督とは十人十色。そんな中で神川監督は、感情が出るタイプではあるが、決して怒り散らす人ではなく、厳しい時間帯でも選手と一緒に戦い、そして檄を飛ばす熱血指揮官でもあり、言うなれば司令官として上からクールに見るのではなく、部下とともに前線で共に戦う部隊長のようなタイプ。だからこそ、明大監督時代から惹きつけられてきたが、プロ監督になってもそのスタイルに変わりはなかった。

しかし、まだ神川グルージャは結果を出てはいない。だがチームは限られた戦力の中で、しっかりと成長の爪痕を残し始めていることも確かだ。ただ守って、長いのを前線に入れるだけからの脱却も進んでいるし、明大時代から、フェアプレーの徹底を説いてきた神川監督のチームらしく、レフリーに何度も異議を唱えた相模原の選手とは対照的に、グルージャの選手には そのような場面はなかった。確かに、4試合を終えての勝ち点はまだ1。だが神川新監督の下、新しいグルージャは「こういうサッカーをやるんだ」というものを、しっかり表現し始めている。 そしてもう一つ、プロ監督してやりたいこととして挙げていた、クラブの土台作りというものにもトライしようとしている。

グルージャというクラブが、盛岡や岩手という土地で根を張るにためには、まずしっかりとしたサッカーをやることが大事と考え、トップチームの改革に乗り出しているが、それと同時に学生を指導してきた監督らしく、育成にも力を入れるべく下部組織の整備に対しても余念がない。 このように、トップチームの強化を図りながら、下部組織の整備も進めるとなると、これは1年や2年で済む話ではない。そう考えれば、今の時期は目先の結果ではなく、まずサッカーの「質」というものに注目してあげたいところ。そして神川監督は「もう少しメイジの香りがするサッカーをやりたいし、それを体現できる選手は欲しいよね」とも語ってくれているので、これから先は、より「神川色」が強まっていく補強状況にも注目していきたい。

さて最後に、なぜ明大監督という「安住の地」を捨て、環境的、財務的にも万全ではないグルージャ盛岡の監督という立場を選んだのかを、神川監督に直接伺ってみた。

『長い間、僕は本当に“明大”という場所で、いろんな人に世話になってきましたが、最近になって僕は自分が育てた選手たちから「教わること」がたくさんあったことに気がついたんですね。長友なんか、今や世界のスター選手じゃないですか? でも彼はそんな座に甘んじることなく、常に前向きにチャレンジしている。長友だけじゃなく、多くの教え子たちもどんどんチャレンジしていますが、そんな姿を見て「人にはチャレンジしろと言って、じゃあ自分はいったい何をしているんだろう…」と。そこからですね、自分も新しいことにチャレンジしなければいけない!と思ったのは。

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それがきっかけで、S級にチャレンジしようということから始まりました。しかし最初に受講を希望した2009年は、受講する前に行なわれる受講者選考の段階で落ちました(笑)。そして大学2冠や天皇杯でのJクラブ撃破を経て、やっと2011年に受講することが出来ましたが、久しぶりに「教える」から「教わる」立場に変わるとうまく行かない(笑)。その際には恥ずかしい思いも沢山したし、インストラクターの方にはいろいろ迷惑をお掛けしてしまい、出来の良い受講生とは言えなかったと思います。まあそれでも、なんとかS級を取得出来ましたし、その後はユニバーシアード監督などを経て、明大以外での活動も増え、さらにチャレンジしたいというか、次の仕事をどうしよう? という時期を迎えていたときに、幸いにもいくつかのオファーをいただくことが出来ました。

そしてその中には、グルージャ盛岡の副社長である平川さんからも連絡もありました。その後、それぞれのお話を伺いましたが、僕は都心部のクラブではなく、まだこれからという地方クラブで、トップチームの指導だけではなく、アカデミーも含めた土台作りもしたいと考えていたので、グルージャさんのオファーが一番自分の理想にマッチしていたこともあり、今回監督という職を受けさせていただきました。 まあ、大学の指導者と言えば、長く勤めている方も多いですが、僕のような変わり者がいてもいいと思うし、他の学校の指導者の中でも同じような夢を持っている人もいるからこそ、やってみようと思ったし、僕が一石を投じることにより「神さんがやれるなら、じゃあ続いてみたい!」と思ってくれることも期待しているんですよね。

まあチームとしてはまだまだですが、全員がハードワークしながらもフェアプレーをモットーに、魅力的なサッカーをやれるクラブにしていきますので、今後もよろしくお願いいたします!』


このように語ってくれた神川監督。

本来であれば、明大監督として、安定した生活も約束されていたはずなのに、敢えて「チャレンジする」という、冒険に出た。確かに全ての環境が揃っているメイジに比べ、盛岡では苦労することも多いだろう。しかし、ただチームを強くする監督という役割だけではなく、地域の活性化や新しい世代の育成というように、GM的役割にも関われるこの地は、彼にとってまさに「願ったり叶ったり」の場所でもあったのだ。

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まだもう少しの間、苦労が続く時間になるだろうが、クラブもサポーターも長い目で、神川明彦の挑戦を見守って欲しいところでもある。

2015年3月26日 (木)

ほろ苦となった新スタジアム初戦

2015年 明治安田生命J3リーグ 第2節
長野パルセイロ 1-2 SC相模原


長野パルセイロにとって、この日の試合はただのホーム開幕戦ではなく、待ちに待った『特別な日』であったのだが、結果はなんともほろ苦いものとなってしまった…


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試合を振り返る前に、少しクラブの歴史に触れたいが、JFLに昇格した2011年から2位、2位、優勝と、常に優勝争いを演じて来た長野パルセイロ。そして2012年までのJFLでは、J準加盟クラブになり、その上で原則4位以内に入ればJ2昇格が可能であった。


そう、長野パルセイロは成績面では2011年から毎年ノルマをクリアしていたのだが、ホームスタジアムである南長野総合運動公園球技場 が、Jリーグが定める『J2基準』を満たしていないため、J2参戦にこぎつけることが出来なかった。そしてスタジアム建設がスタートした2014年シーズンは、優勝でも2位でもいいから、昇格することだけが目標だった。そしてJ2に上がったと同時に、新スタジアムのお披露目と行きたかったのだが、その悲願を達成することが出来ないままシーズンを終えてしまった。


J2に上がれなかったことは残念であったが、クラブ、選手だけではなく、サポーターにとっても待望の『我が家』が完成したことは、やはり嬉しいことであり、期待感もより高まるものだった。そしてスタジアムの各所には、これまでチームの歴史を作って来た選手たちの幕が貼られるなど、レジェンドたちへのリスペクトを忘れない、サポーターの粋な演出が新スタジアムに華を添えてくれた。


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そして迎えた試合だが、いきなりチャンスをつかんだのはパルセイロだった。試合開始直後、右サイドの金久保から中にクロスが入る。一旦は流れるかと思われたボールだが、佐藤悠希は躊躇なくオーバーヘッドでこのボールに反応すると、シュートは見事にゴールに吸い込まれて行った。新スタジアムでの初戦という記念すべきこの試合で、開始わずか1分(公式記録上は2分)で生まれたファーストゴールは、この日を待ち望んでいた全ての人が興奮するような、スーパーゴールという劇的すぎる形で飛び出した。これ以上ない『南長野劇場』の幕開けだった。そしていきなり先制点を奪った長野は開幕戦のフラストレーションを吹き飛ばすかのような動きを見せ、序盤は試合を優位に進めて行く。


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たが、新監督に経験豊かな辛島啓珠氏を招き、さらには町田と並んでJ3リーグとしては充実度の高い補強を成功させ、チーム力を昨年終盤とは比べようもないほどアップさせた相模原はそんな展開でも慌てることはなかった。今季から完全移籍で晴れて相模原の一員になった高原に、清水からレンタルでやって来た樋口、そして経験値の高い森など、J3としては別格な選手も揃えたこのチームだが、シーズン前のトレーニングマッチで最も目立っていたのは、岐阜から新天地を求めてやってきた須藤右介だった。


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これまでの相模原と言えば、高原ばかりに注目が集まっていたが、サッカーの本質的には地域〜JFL時代に培われた曽我部や菅野(現長野パルセイロ)がサイドで起点となる攻撃的サッカーが持ち味とも言えた。しかし今シーズンから就任した辛島新監督は『バランスの取れたサッカー』を掲げ、これまでのサッカーからさらに上を目指そうとする中で、須藤という新戦力は戦術的にも高原や樋口以上に存在感を増して来ている。後ろから蹴って素早く前に押し上げるのではなく、中盤でタメを作ってから、押し上げのタイミングをしっかり作り、そこからアクションに移行するコンセプトが、トレーニングマッチから浸透していた。そしてCBもこなせる彼が前で体を張ってくれるからこそ、相模原の最終ラインは落ち着いて対応することが出来たのだ。


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劇的すぎるオープニングゴールだったが、『前の試合でチャンスでも消極的過ぎだった。だからこそ、無理やりでも打っておこうという』という、佐藤の積極性が生み出したゴールであり、GKの佐藤健は『まさか打って来るとは…』と思い返しくれたあのゴールは、崩した上での必然ではなく、佐藤悠希の積極性が生み出した偶然でもあった。だからこそ、最初は押し込まれた相模原だったが、時間の経過とともにじっくりボールをキープして、前に出やすい状況を作る自分たちがやるべきサッカーを取り戻し始めた。それに対しての長野だが、須藤、トロがボールを持った時に2トップのどちらかはプレスに行くが、3ボランチの中で『誰が行くのか?』の判断が常に曖昧であった。そして前線にボールが収まったとしても、やはりその場面で『誰が行くのか?』が曖昧であり、この部分(中盤の完成度ではなく)でのコンセプトが相模原より劣っていたことにより、同点ゴール、そして仙石の退場にも繋がっていってしまう。


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内容的に言えば、これ以上ない形でスタートしたはずだったこの試合だが、終わって見れば1-2と逆転負け。それも相手との完成度の違いを見せられた上での完敗だった。仙石の退場がなければ…と思う人もいるかも知れない。だがそれは明らかに違うと言える内容でもあった。スタッツを見ると長野のシュート数は結果的に相模原を上回る8本を放った。しかしそのほとんどは、終盤のパワープレーが生んだものであり、相手もその流れを見極めた守備をしていたので、相手から見て驚異になるものではなかった。そして退場となった2枚目の警告シーンだが、これは妥当なジャッジであったと言えよう。そう考えれば、今季は『中盤の要』として期待されている仙石だからこそ、前半ですでに1枚貰っている状況を考えながら、もう少し冷静にプレーして欲しかったところでもあった。


そして試合後、地元メディアは美濃部監督に対して『待望の新スタジアムでの開幕戦で、先制点が取れたし、若い選手も出場するなど収穫もあったかと思いますが…』と言う質問を投げかけた。しかし監督は至って冷静にこのように答えてくれている。


『結果から考えたら、収穫は少ないと思うし、内容にしても収穫は少なかったです。今は自分がイメージしてるサッカーと、全然かけ離れた内容になっているので、なんとか立て直さないといけないと感じています。そう考えれば、今日の試合からの収穫というものは無かったと感じます』


まあ、予想していた通りの返答だった。何かいいコメントが欲しいのはわかるが、あの内容で「いい動きが出来ている」とか、「方向性は間違っていない」と返事が返って来たら心配になるが、そこはさすがに美濃部監督。正しく現状を分析しているのだ。


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補強により、戦力差があるのは仕方のない部分でもあり、『それを今すぐどうにかしろ』と言うのも無理な話。そしてその戦力差というものは、戦いながらチーム力を高めて行くしかないものでもある。だからこそ、その部分に対する批判は不要だと思うのだが、チームの方向性やコンセプトが見えないのは非常に難しい問題でもある。要はこの2試合で『2015年の方向性』が見えてこなかったのがもどかしいのだ。町田戦で見せた粘り強い守りは、今シーズンのベースになるのかと思われたが、この日は素早く展開しようとした町田とは違いを、緩急をつけながらしっかりボールを繋ごうとする相模原に対して、『やるべきこと』がまるで見えなかった。


別に勝てなかったから、チームを批判しているという訳では無い。今年は『最後までもつれるであろう』と見ているからこそ、チームにはイケイケとか『なんとなく』ではなく、地に足をつけた『方向性のあるサッカー』をやってほしいのだ。だからこそ、序盤に勝てない試合があっても仕方が無いと見ているのだが、その中で『何がやりたいのか見えない試合』というものをやられてしまったら、それはたまらない…


美濃部監督とは中盤のシステムや、プレスの位置などの話などをさせてもらったが、『次節は仙石が出場停止と言うこともあり、人の入れ替えをすることになるし、今のチームに一番いいと思われる形を模索することもいいかもしれない』と答えてくれている。


『焦ることはない』と言っても、方向性やコンセプト、そして選手それぞれの動きだしのタイミングがズレたままだと、時間だけが無駄に過ぎてしまうことになる。当然ながら、対戦相手からマークされる存在であることに変わりはないし、その上で相手も戦力を高めている。だからこそ難しい戦いが続くことになるのだが、その中で走る、動くという『基本』の部分で負けてしまったら勝てる試合も落とすことになってしまう。


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エースがいないから? 退場者がでたから? それを言い訳にしていてはいけない。華麗さや理想を求めるより、今は泥臭く走り抜いてしぶとく勝ち抜くしかないのである。そして華麗なパルセイロ、理想を追い求めるパルセイロは、昨年12月の讃岐で捨ててきたはず。そう、獅子は千尋の谷から駆け上がるしかないのである。12月、讃岐に現実を見せつけられ、そして今、自分たちがやるべきサッカーすら見失いかけている長野パルセイロ。だが、そこから這い上がるだけの力は間違いなくこのクラブにはある。もう一度、しっかり自分たちの現状を見つめなおした上で、藤枝のピッチでは華麗さではない『激しさ』もある『獅子の戦い』を期待したいところだ。

2015年3月20日 (金)

2015年の長野が目指す方向性とは?

2015年明治安田生命J3リーグ 開幕戦
町田ゼルビア 0-0 長野パルセイロ



正直なところ、結果にしても、内容にしても『予想どおり』とも言えたこの試合だが、この結果(内容)に対してポジティブに捉える人、危機感を抱く人、さらには『こんなもんなのか?』と捉える人など、感想は様々に分かれるところかも知れないが、一つだけハッキリ言えることは、現時点で長野パルセイロというクラブがJ3でナンバー1クラブではないと言うことだろう。



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当然ながら、長野エルザ時代から見続けて来ているからこそ、このクラブに対する思い入れは強いものがある。しかし長野以外のJ3クラブの補強状況、さらには仕上がり具合にトレーニングマッチの内容なども合わせて、各クラブの「現時点での力」というものを冷静に判断した場合、申し訳ないが今の長野をJ3ナンバー1と言うことは出来なかった。



サッカーを広く見ている人ならば、いかにいい選手をたくさん集めても、絶対的な強いチームにならない場合があることは知っているはず。確かに大型補強を行えば、期待値というものは高まるものだが、その反面で『単純な足し算だけで強くなる保証はない』と言う意見も必ず出て来るものだ。まあ確かに、やって見なければわからないという世界でもあるが、それを差し引いたとしても長野パルセイロの補強は不安を感じるさせるものでもあった。



離別を選択した戦力(選手)に対して、迎え入れた戦力により、更なるパワーアップを図るのが補強の大原則だが、今年に関しては『プラスα』の幅が少ないことは気になっていた。そんな状況の中でキャンプに突入したが、そこでエースの宇野沢が十字靭帯損傷という大怪我を負ってしまい、前半戦絶望という最悪のシナリオを迎えてしまった。さらに宇野沢以外でも故障者が数名出てしまったことにより、仕上がりと言う部分でも『万全』とは言い難い状態で開幕を迎えていた。



だからこそ現時点で『J3リーグナンバー1』とは言えない現実があった。しかし、勘違いしないで欲しいのは『長野が弱い』と言っている訳ではないことだ。JFL初年度となった2011年以降、リーグ戦での結果は常に2位以上の成績を残すなど、その安定した力は今シーズもしっかり維持しており、当然優勝を争うクラブの一つであることは間違いない。あくまでも、現時点で『1番ではない』と言っているだけの話である。



しかし、昨年の入替戦で讃岐にあって長野に無かった『圧倒的な個の力』というものを、シーズンオフに補うのか? という部分に注目していたのだが、J2リーグでの経験値も高い千石廉を獲得したものの、結果的に大きな目玉となる補強はないままでシーズンに突入した現実に対しては、不安が残るところでもあった。そして、理想通りの補強をやりきれなかった、クラブの厳しい現状にもだ…



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例えば今シーズンの新しいユニフォームを見て欲しい。ここ数年は胸、袖、背中と全て位置にスポンサー広告の入ったユニフォームであったが、今年は背中の部分には入っていない。こんなところにも、昇格を逃してしまった影響が及んでいるし、コスト削減のため選手人件費も限られた予算内で人選しなければいけなかったこともあり、思い切った補強に出られなかった。仮に今シーズンで昇格を決めたとしても、実は経営状態が、「真っ赤でした」なんてことなることだけはどうしても避けたかった。だからこそ、バクチに出るのではなく、『我慢しつつ、その中で結果を出す』という、堅実路線を選んだ長野パルセイロ。



そして開幕戦の相手だが、長野とは対象的に積極的な補強を行い、プラスαの部分では間違いなく今季のJ3ではナンバー1となった町田ゼルビアだった。例えば開幕戦のスタメンではなく、サブの選手を見て欲しいのだが、他のJ3チームであればスタメンでもおかしくない名前が並んでいる。確かに『足し算』だけで戦力を図ることが全てではないのはわかるが、J3というカテゴリーにおいては、選手個々の『ポテンシャルの違い』はJ2以上に物を言うからこそ、町田の『やる気』というものも、とても強く感じるのだった。



このように、補強に成功した町田と、そして公式には『不満がある』とは言わない(言えない)が、自分たちが感じている不安(不満)を『まだチームとしてのポテンシャルは完全ではない』という言い方で留めた長野という両者が開幕戦で対戦したが、冒頭にあるとおり町田ペースでゲームは進んだ。



シュート数だけではなく、バイタルエリアへの侵入回数、ビルドアップから展開が繋がって行く回数など、ほとんどの点で町田は長野を上回っていた。そして長野の攻撃という部分では、昨年の悪い時を再現するかのように、松原のロングスローと山田の突破以外、見るべきものが無かった。繋ぐサッカー、攻撃的サッカーと言われた、これまでの姿を開幕戦で見ることは全く出来なかった。しかし、このゲームだけを見て『今年の長野はこんなもんなんだ』と判断するのもまだ早い。



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このゲームでは、お世辞でも攻撃陣の出来はよくなかった。美濃部監督も『お客さんにとってはつまらなかったと思います。でも、今のウチの状態からすればこんなもんですよ。3トップで入ったけど、ボールが前で収まらないから形も作れなかったですからね。それに相手がもっとワイドに来るかと思ったら、予想以上に縦に入れてくる回数が多かったこともあり、ラインが中々上げられなかった。まあ今は我慢しながらの時期なんで、無失点で抑えて勝ち点を取れたから決して悪いとも思っていません』と話をしてくれたが、今の状態がよくないことを理解しているし、さらには宇野沢もいない状況だからこそ、大橋を入れて守備を安定させる3ボランチシステムも準備して来た。そして流れが悪い中でも、しぶとい守備で町田の攻撃を凌ぎきったことこそ、やはり長野には底力があるという証しにもなったと感じるところでもあったが、実はこの守備こそが今年の長野のポイントになるのでは? とも感じている。



昨年J3で優勝したツエーゲン金沢だが、攻撃力以上に鉄壁を誇った守備力が優勝の原動力になったことは誰もが認めるところ。そして思い起こせばツエーゲン金沢というチームも上野監督(現レノファ山口監督)が堅守速攻の形を植え付け、全社からの復活でJFL昇格を勝ち取った(※誤認した内容をそのまま掲載してしまい申し訳ありません。こちらの部分に関しましては、お詫びして訂正します)。そして現在の森下監督も一時はポゼッションサッカーを目指した時期もあったが、昨年は現実的なサッカーに切り替え、強固な守備力をベースに粘り強い戦いを見せて最終の3巡目に首位に立って、そのまま優勝をものにしたのだった。



長丁場であり、さらには同じ相手と3度対戦するJ3というリーグは、レベルはともかく、『やりにくい』リーグであることは間違いない。だからこそ昨シーズン、序盤から首位を走っていた町田は終盤に失速してしまった。優勝候補と見られていた長野も相手からの徹底した対策を練られて苦戦を余儀無くされた。



確かに戦力をアップさせ、最初から圧倒的に勝って、堂々とJ2に上がりたいという理想論はどのチームにだってある。しかし、その理想論を実践することが難しいことを知らしめた昨シーズン。さらに長野にとっては、昇格を逃したことで『予算』という部分で無理出来ない事情もあった。だからこそ、今年の長野は理想論だけではなく、勝ち点を積み重ねられる現実的なサッカーを求められるシーンが増えて来るはず。



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堅守をベースに、少ない手数で得点を奪い、リードを守りながら終盤を迎える。そして同点に追いつこうと相手が前に出てくれば、これまで積み重ねて来た攻撃的サッカーもやり易くなるはず。だからこそ、今は辛抱の時となる長野。



次節はついに南長野でのホームゲームとなるが、相手の相模原はベースになるチーム力は別として、プラスαの幅だけで見た場合には長野よりも上回るはずであり、またしても難敵と言える相手を迎える。正直、1週間で劇的によくなる可能性は低い。だが、長く、難しい戦いが続くリーグ戦なのだからこそ、焦る必要もない。開幕戦も「勝てなかった」と、捉えるより、悪い中で町田の勝ち点から2を奪い取ったと考える方が無難。



現状から考えた場合は、今からエンジン全開にする必要もないのだから、ひたすらしぶとく、泥臭く戦い、夏を過ぎたぐらいまでに良くなればいいのである。そのためにも、今年の長野には『繋ぐ』ということだけではなく、いかに効率良く勝つか? をとことん求めてもらいたところだ。

2014年12月10日 (水)

讃岐が再び教えてくれた大事なこと

悲願のJ2入りを目指し、カマタマーレ讃岐との入替戦に挑んだ長野パルセイロだったが、2試合合計0-1で敗戦を喫し、昇格のチャンスを逃してしまい、讃岐はJ2の座を守る事に成功した。そしてその入替戦から3日が経過したが、改めて試合を振り返りながら、今後の長野がどうあるべきか考えて行きたい。

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ホームである長野で行われた1戦目は、アディショナルタイムに2度の決定機を迎えながら、それを両方とも外してしまったものの、アウェーゴールを与えなかったこともあり、悲観するほどでもない状況で第2戦の地である丸亀に乗り込んだ長野。しかし結果は0-1で敗れてしまったが、試合後の美濃部監督は、この試合を見た人すべてが感じたはずである感想と同様に、差があったとことを認めた。そして「球際での競り合い」は全く違っていたとコメントしてくれていたが、それ以外の部分でも大きな差があったと思われる2つのポイントにフォーカスを当てて触れておきたい。

一つ目は「したたかさ」だ。

2試合を通じて、スコア以上に差を感じたこの試合だが、(前に)行くところ、引くところをJ2での戦いの中で身を以て知った讃岐にとり、長野の攻撃は十分凌ぎ切れるものであったのだ。また、仕掛けてくるアタックのバリエーション、そして隙が生まれてくるスペースに関する情報も、全てスタッフのスカウティングどおりであり、一見すると長野も奮闘を見せたと思われた部分ですら、実は讃岐にとっては想定内であったのだ。だからこそ、試合後の北野監督は2試合を通じてミスからピンチを招いた1試合目のアディショナルタイム以外、特に慌てる必要はなかったとも語ってくれている。

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そして 2戦目の前半は、カウンターを有効に使った「以前の讃岐」とは違う、縦だけではなく、サイドにも効果的にボールを動かしながら迫力のある攻撃を見せ、4-4-2でスタートした長野の2ラインをズルズル後退させ、宇野沢と勝又を孤立させて行く。しかし後半に入って長野がペースを取り戻すと、今度は一転して守りからカウンターと、これまで築き上げてきたサッカーに切り替え、見事なまでの試合巧者ぶりを発揮し、長野の攻撃を次々とかわして行くのであった。そんな流れの中で、一発でウラを狙っていた木島にボールが入った瞬間、勝負ありだった…

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試合後の美濃部監督も「J3リーグだって、非常に難しいリーグです」と前置きはしたものの、全体的なリージ自体の力関係としてJ2とJ3では大きな差があることも認めていたが、2010年の全国社会人サッカー大会から続くライバルとの差は、この1年で大きく開いてしまったことも認めざるを得ない瞬間でもあった。今シーズンの讃岐は、結果的に終始残留争いすることになってしまったが、そんな戦いのなかでJ1昇格を決めた、湘南、松本、山形に、かつてJ1でタイトルも獲得した磐田、千葉、大分などのチームと当たることで、壁にぶつかりながらも成長し、後半はしっかりJ2でも戦えるチームに生まれ変わっていた。それは長野がどうJ3リーグの中で頑張ったとしても、得られる経験値ではなかった。だからこそ、長野の攻撃に対して慌てることもなく、状況を見ながら戦い方を変更する余裕を見せるなど、したたかに勝利を手繰り寄せたのであった。

そして2つ目は絆という点であろう。

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試合後「決勝ゴールを決めた木島選手への評価は?」といいう質問に対して北野監督は苦笑いしながら「あれが木島の仕事だから(笑) ホント、木島の動きに対してはさ、目を瞑っている部分はたくさんあるよ。でもね、それを差し引いても木島はチームのために何かをやってくれる」と話してくれた北野監督だが、これはお互いの信頼関係がしっかり構築されているからのコメントでもあった。

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以前北野監督は「木島もさ、いろんなチームで、いろんなことがあったじゃない? で、一度、俺んとこに連絡してきて『入れてくださいよ』って言って来たけど、その時はシーズンの途中だし、俺の一存では決められないと断ったけど、行き場を無くしてしまってまた、『北野さんお願いしますよ』って感じで来られたから、じゃあ仕方が無い!って感じになったんだけど、俺としても奴は(帝京の)後輩じゃない? だからさ、アイツの最後ぐらい、綺麗に終わらせてあげたいからさ…」と話してくれた。そう、北野監督と木島には普通の「選手と監督」という関係だけではなく、先輩後輩と言う間柄であり、共に偉大なる恩師、古沼貞雄さんにサッカーとは何か? を教わった仲間なのである。だからこそ、北野監督は木島という選手を誰以上に目を掛けた。それに木島も不器用ながも応えようと奮闘し、それがあの決勝ゴールに結びついて行った。

また、北野監督と木島の関係だけではなく、いろいろなチームを渡り歩いたベテランたちの「見えない活躍」が、チームをどん底から救い出し、バラバラだったチームを一つにし、それがJ2残留へと結びついていたことを見逃せない。開幕から7連敗スタートと、J2の洗礼を浴びた讃岐。その後も勝ちきれない試合が続き、チームの中では「やっぱりだめなのか…」という空気が流れ始め、チーム自体がバラバラになる寸前の時期もあった。

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J1のようにインターバルのないJ2で、チームをリセットする時間はほとんどなかった。そんな過密スケジュールの中で、チームを立て直そうと活躍してくれたのは、木島、西野、高橋、山本といった、いろいろなチームを渡り歩いて、このチームに拾われたベテランたちであった。彼らが率先して若手選手たちと話し合う機会を作り、チームの方向性とやり方についての意見をまとめ、その上で監督やスタッフたちと再調整を行い、チームの意思統一を改めて行い、時にはチームの雰囲気を良くするために、やはり彼らが率先していろいろな行動を起こしてくれることによって、バラバラになりそうだったチームが、一つの絆で結ばれたのであった。

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そしてこの試合のベンチには、ベンチ入りできない選手たちのユニフォームを全て並べ、「チーム一丸」となって戦うことを前面に出していた讃岐。そんなことがあったからこそ、北野監督は残留を決めたあとに、チームを立て直すことに尽力してくれたベテランたちへの感謝の言葉を忘れなかったのである。

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さて、話を長野の方に戻すが、長野にだって今シーズン、相手が研究してきた戦術に自分たちらしさをなかなか出せず、苦しい試合となったゲームがいくつもあった。だがそれでも「力の差」により、試合の中でそれをひっくり返すことが出来たが、讃岐にはそれすら出来ない「大きな壁」にブチ当たっていた。そしてチーム全体がバラバラになりそうになるまで、相手チームにボロボロにやられてしまった。そんな経験があるからこそ、今の「逞しい讃岐」が産まれたし、北野監督も選手も「今の力が本物なのか? ということは、来年またJ2の舞台でやらないと証明出来ない」という強い思いがあった。

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当然、長野にだって「絶対にJ2に上がりたい」という強い思いはあった。だが、かつてのライバルとの差は、想像以上に大きかったのである。また、伊東輝悦という日本サッカー界におけるレジェンドも在籍しているものの、残念ながら彼の姿は今ピッチにはなく、長野にとって「宇野沢」という存在がすべてだったことは否定出来ない事実である。確かに長野の選手を見渡せば、能力の高い選手は多いが、宇野沢以外でJ1などの大きな舞台で経験を積んで来た選手はほとんどいないし、相手からすれば、宇野沢以上に「怖い」と感じさせる選手はいなかった。

長野というチームはこれまで、ビッグネームに頼らず、選手の能力を最大限に伸ばしてチーム力を成長させて来た。いうなれば、現在の長野は美濃部体制ではあるものの「地域時代からの集大成」とも言える形でもあった。しかし、悲願のJ2昇格が目の前に迫った時に、ライバルであった讃岐に「これではまだ足りない」という厳しい現実を突きつけられたこの試合。

対戦相手に対してもっと厳しい当たりをしなければいけないし、もっと走ってハードワークして、相手の良さを消して行かなければ上ではやっていけないことを教えてくれた。そしてこれまで以上にポテンシャルの高い選手、そして経験値のあるキープレーヤーの存在が必要となってくることも。そうなると、クラブを運営していく上で選手人件費に関してはさらなる予算が必要となってくるが、それを補える「営業力」という部分も重要になってくる。美濃部監督が感じた「差」を埋めるための、最後のピースが手に入れられるように、クラブが今以上の「努力」ができるか? というのも大きな鍵となってくる。

讃岐は昨年、長野が昇格条件を得ていなかったこともあり、J2リーグ21位のFC岐阜との対戦ではなく、最下位のガイナーレ鳥取との入替戦となったが、近年のJ2リーグの成績を見る限りでは、最下位と21位はそれなりの差は出ている状況であり、だからこそ讃岐は鳥取に勝てた。しかし、今年はレギュレーションどおりにJ3の2位 vs J2の21位という形になったが、想像していた以上にJ2リーグ21位の壁は高かった。この状況を踏まえれば、今後もJ3の2位チームにとってはかなり難しい戦いになることが予想される入替戦。そして長野にとっても、来年は絶対に「優勝するしかない」という思いは、より強くなった。

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これまで、「誇れるサッカー」を作り上げて来たという自負があった長野。確かにJFLやJ3というカテゴリーとしては、非常に完成度も高く、それなりに評価を得た事も事実だった。しかし、2010年の全国社会人サッカー大会決勝戦以降、常にライバルとして争って来た讃岐に、手痛い敗戦を喫したことは、「このままでは足りない」と、目を覚まさせるいい機会になったと捉えるべきであろう。ちょうど2010年の対戦の時にも「自分たちのサッカーだけでは勝ちきれない」という現実を見せつけられ、地域決勝に向けて鈴木政一強化部長(前U19日本代表監督)の指導のもと「負けないチーム作り」を進めて、JFL昇格を勝ち取った過去がある。そして今、あの時と同じ北野監督率いる讃岐の前に、足りないものが、何であるかを教えられたのは、もう縁としかいいようが無いだろう…。

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そして奇しくも北信越リーグ時代のライバルでもあった松本山雅、ツエーゲン金沢がそれぞれJ1、J2へと昇格し、2009年同様に再びライバルたちに差を広げられてしまった長野。美濃部監督は「いつまでも下を向いているヒマはない」と語ってくれたが、これ以上の足踏みは許されない長野にとって、2015年という年は優勝以外許されない年となってくるのだが、金沢に勝ちきれなかった事実、そして讃岐に見せつけられた現実を、どのように分析し、どうやってこれを「糧」としていくのか? 答えは自ずと一つしか無いと感じる。これまでの長野が積み上げて来たスタイルに、さらなるハードワークを積み重ねて行くことしかない。そしてその答えを見つける鍵として、長野で2-0と勝利した町田戦の「ハイプレスサッカー」が、これから目指すサッカーの着地点となっていくはず。あの時の力強いサッカーを、コンスタンスにやれるようになれば、優勝という目標が必然になってくるはずだが、それをやりきるためにもこれから先に発表されてくる、補強情報にも注目して行きたいところだ

2014年9月 6日 (土)

信じる心が生んだ奇跡の試合

J3リーグは第23節から、今年の集大成となる第3クールに突入。そんな中で首位町田ゼルビアはアウェーの地で3位長野パルセイロと対戦した。

22節では琉球に不覚を取ったものの、第2クールでも質の高いサッカーを見せて首位の座をしっかりキープし続けていた町田。それに対して長野は、天王山と目されていた前半戦最後のゲームとなった第17節・アウェー町田戦を0-1と落としてしまったのだが、そこからは不安定な内容に終始してしまっていた。確かに、対戦相手に研究されてしまったことは間違いない。22節の相模原戦でも、これまでの不振を引きずったかのようなゲームを前半はやってしまったのだが、試合後の相模原・木村監督も「相手の自由を奪って流れを引き寄せるところまではプラン通りだった」とも語ってくれている。このように、「追われるもの」の苦しみと直面し続けていた長野だが、相模原戦の後半から出場した一人の存在がチームを変えた。

それは松尾昇悟。

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このチームの中で、たぶん彼以上に「どん底」という現実を見て来た選手をいないのではないかと思うのだ。国士舘大学卒業後は、Jクラブには入れなかった。そしていくつかテストを受ける中で、彼が最終的に入団したのはアルテ高崎だった。今はもう存在していないこのクラブだが、選手を取り巻く環境は本当に最悪であり、長野のようにクラブや協賛企業が選手の生活面までサポートしてくれるなんていうことは当然なかった。また成績の方も、毎年の様に降格との背中合わせな状態が続き、Jリーグに昇格していくクラブが生まなければ、とっくに関東リーグに降格していてもおかしくはなかった。そして彼がアルテ在籍時には、地域リーグチームとの入れ替え戦(三洋電機洲本戦)まで経験している。

だがそんな「(チームではなく、クラブ運営組織として)ど底辺」と呼べるようなクラブであったが、松尾は後藤義一(現・東京国際大学コーチ)という素晴らしい指導者と出会うことで、成長するきっかけを掴み、そして彼から薫陶を受けることで選手としても、人としても成長し、「ここから這い上がってやる!」という、むき出しの闘志を見せることで他チームからも認められる存在となり、長野への移籍というステップアップを勝ち取れた。そんな彼だからこそ、素晴らしい環境があり、選手としても高いレベルがありながらも、もがき苦しむチームの状況を憂いていたし、誰よりもどうにかしたいという強い気持ちを持っていた。

だからこそ、出番が回って来てからは、誰よりも声を出し、「ここだよ」「今(この時間で)点を取らないでどうするよ?」と全員にハッパを掛け続けた。そして彼が入った事により、あれほど沈黙していた全体の運動量がよみがえり、どんどん前からプレスを掛けられる様になっていた。そして流れを掴んだ中で値千金のオウンゴールが生まれたのだった。

もし相模原戦で勝ち点3を奪えなければ、限りなく大ピンチであった長野。だが、松尾の気迫がチームの雰囲気を一気に変えてくれたのである。そして町田戦を前にして、松尾、佐藤、宇野沢のFW陣3人は気合いを込めた丸刈りにして挑んで来たのであった…

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そして試合だが、もう今更細かく語る必要もないと思う。
これまでの不安定なサッカーの影なんて、この試合にまったくなかった。正直ここ2シーズン、かつてほどの輝きが消えてしまうかのようなプレーも増えていた大橋だが、この日は「そんなことを言ってごめんよ…」といいたくなるほど、アグレッシブにボールを奪い、終始高い位置でプレスを掛け続けてチーム躍進の「心臓」として獅子奮迅の活躍を見せた。また、佐藤もこの日は労を惜しまない前線からの守備を見せ、攻守に渡ってキーマンとして活躍。

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これまで長野は「パスサッカー」がコンセプトであったはずなのだが、この日のサッカーは、迫力満点の「超プレッシングサッカー」であり、こんなサッカーをやれるんだ? と、見るものすべてに驚きと可能性を見せつけたはず。そして町田ゼルビア・相馬監督も「立ち上がりから長野さんに押し込まれる展開になってしまい、自分たちのやりたいことをやりきれないまま終わってしまった」と語るなど、完敗を認めるしかなかった。

それにしても、これまでの不振、迷いとはいったいなんだったのだろうか? とも考えてしまうこの試合だったのだが、そんな試合の裏に指揮官が持ち続けていた「信じる心」の強さがあったことを忘れてはならない。

昨年は圧倒的な強さでJFL優勝を飾るだけではなく、天皇杯でもJクラブを連続撃破して、一躍その名を全国区として長野。だからこそ、今年は相手のマークもこれまで以上になったし、それが原因となりここ数試合では思うような試合が出来なくなってしまっていた。

そんな状況をどうするべきなのか?

美濃部監督も、ここ最近の苦しい状況に対して「どう対処すべきか?」はかなり悩んだ。選手を入れ替えたり、ここ数試合では3バックはいじらないにしても、前線を2トップにするなど、いくつかのテコ入れを図ったのはその現れだ。しかし美濃部監督は「戦術ありきで試合はしていないし、するつもりはない」「ウチの選手は普段の練習から全員が高い意識を持って練習に取り組んできているの、誰が(試合に)出てもおかしくはないと思っています。そして我々スタッフは、その中で特に調子がいいと思った選手を毎試合チョイスしています」と、繰り返し語って来ている。

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監督という職業は非常に難しい職業であり、そして孤独な仕事でもある。勝てば名将といわれるが、結果を出せなければ「無能」と、いとも簡単に言われてしまうし、その先にあるのは「クビ」という厳しい現実が待ち構えている。また、選手のメンタルをうまくコントロール出来なければ、使われない選手たちとの「壁」を作ってしまうもの。

そしてどんな名将であろうと、選手にやりたいサッカーはこうだ! ということは伝えられても、試合になってしまえば、自分自身ではどうすることも出来ないのである。だからこそ、監督という職業は最終的に「信じる」しかない。そして試合前の最後の短い時間、美濃部直彦は一人静かに選手たちの動きを見つめるのだ…

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そう、監督が最後に出来ることとは、選手を「信じてやる」だけなのである。そして美濃部監督は、この大事な一戦の前で、選手たちに「足が止まるまで、やれるかぎり前から仕掛けて行こう!」と選手に魔法の言葉をかけピッチに送り出すと、選手たちは「最高の答え」を長野の地で導きだしたのである。

この町田戦、信じる心が生み出した「奇跡」のような試合であった…

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しかしだ、その奇跡をこの1回だけにしてしまったら、何も意味は無い。町田を相手に、今季最高の試合が出来たことで満足していたら、この先にある目標までは到底たどり着けない。23節では2位金沢も勝利した事で、首位との勝ち点差こそつまったが、置かれている(3位という)状況も結局変わってはいない。だからこそ、残された10試合でこの日見せたアグレッシブなサッカーをやり続ける必要がある。そしてそれをやり続けることによって、「やっぱり長野は強い」と周囲にもアピールする必要がある。

泣いても笑っても、残りはあと10試合。首位町田がこのまま逃げ切るか? はたまた2位金沢、3位長野の逆転はあるのか? 町田戦での長野のパフォーマンスを見るかぎり、2位以内に入ってくる可能性は高いとは思われるが、大事なのは明日の秋田戦でも同様に素晴らしいパフォーマンスを見せられるかである。そしてもう一つ大事なこととして、クラブを支えるサポーターも長野市開催同様に「佐久のスタジアム」をオレンジ一色で埋められるか? ということが大事な焦点になってくる。

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勝利を求められるチーム同様、サポーターにとっても大一番となる佐久開催での秋田戦。決戦まで24時間を切っているが、結果は果たしてどうなるか?

2014年8月11日 (月)

美濃部パルセイロが直面する正念場

前半戦が終え、後半戦に突入しているJ3リーグだが、そのリーグの中で主役になると思われた長野パルセイロの調子がどうも上がってこない…

前半戦のラストゲームとなった首位町田とのゲームで1-0と敗れた長野。確かに現時点では町田の方が上であるということを思い知らされるゲームとなったが、内容的には悲観するほどのもではなかった。そしてそれ以降のゲームだが、天皇杯を除いたJ3公式戦だけで見れば1勝2分1敗。果たして、この数字を悪くないと見るのが妥当なのか? はたまた、停滞していると見るべきか? 結論から言えば、停滞であり、さらにはチームの流れが決していい方向には流れていない印象を強く感じさせた。

その要因はなんなのか? と言われれば、たぶん毎試合ご覧になっているサポーターも重々承知しているはず。そう、前へ行こう、ゴールに迫って行こうという「推進力」が上がってこないのであり、言い方を変えれば攻めに転じた時の連携が良くないこと、そしてアタッキングサードの動き(連携)が良くなっていないことに尽きるだろう。

これに関して分析していけば、理由は2つに別れる。1つは対戦相手の長野対策がしっかりやれていること。現在の長野の基本形は3-4-3だが、前線に3人を置いたところでも、相手からケアすべきポイントは「宇野沢だけ」と見切られてしまっているところ、そして長野攻撃陣のポイントでもあるアタッキングサードの動きを完全に封じ込められてしまっている点だ。

昨年の佐久で行われた町田戦を思い出して欲しい。あの試合は、おもしろいぐらいに三人目の動きがきれいに決まり、町田守備陣を翻弄したのだが、今はそのアクションが全くと言っていいほど見られないのだ。いや見られないというよりも、やらせてもらえないという方が正しいだろう。中盤のセントラルに位置する大橋、向にボールが入る前に、相手側は守備のアクションをスタートさせ、彼らの動きを「ヨコ」だけに限定させるディフェンスをすることで、全体のボールの動きをサイドサイドに追いやり、スピード感を奪い、さらには時間を掛けさせることで、簡単にバイタルに入らせないやり方を徹底させて来ている。

そして2つ目として、新戦力として迎えられた山田のポジションどりから考える、全体の「ズレ」についてだ。確かにここ数試合、彼の積極果敢なドリブル突破がチャンスを生み出しているのだが、彼のポジション取りはタッチラインぎりぎりの場所が多く、連携をとる佐藤との「距離感」がどうしても気になるところでもある。例えば西口と勝又の右サイドは、適度な間隔を保っている場面が多いのだが、山田と佐藤の距離感は、右に比べて離れすぎている感もあるため、佐藤が3トップの左という位置取りよりも、連携面、そして守備面を考慮してトップ下気味に居場所をずらしている時間帯が多くなりつつある。そしてこの微妙なポジション間隔のズレというものが、チーム全体に波及してしまい、連動性が失われてしまっているのだ。

以上の2つの点が重なり合い、長野は思うようなゲームが出来なくなって来てしまっているのだが、長野が不調に陥ったという考え方は半分は当たっていると思う。だが、長野が調子を落としてしまった以上に、他のライバルたちが先駆者を研究し、レベルを上げて来たという面を見逃してはならないだろう。

ではチームはどうしたらいいのであろうか? やはりバランス感、やりやすさから考え、ここは慣れ親しんだ4-4-2、もしくは4-2-3-1の形に戻し、もう一度「前への推進力」を取り戻すことが一番なのではないだろうか? そしてもう一つ大事なこととして、選手一人一人が「勇気」を持って常に一つ前のポジションを取ろうと意識を持つことだ。今の長野を見ていると、「リスク回避」を意識したような「アリバイポゼッション」ばかりが目につくのだが、これは相手にとって思う壺であるし、会場でクラブを応援する人たちから「夢」を奪うようなもの。

美濃部監督はこれまでの話の中で、何度も「お客さんが喜んでもらえるような魅力的なサッカーをやりたい」と語ってくれているが、今の長野は厳しい言い方をすればそれは出来てはいない。美濃部監督が就任して以来、バドゥ時代、薩川時代を超越する強さとおもしろさを身につけ、JFL優勝という勲章を得てJ3という新しい戦いのフィールドに出た。そして初代J3チャンピオンになってJ2へ乗り込もう! と目標を掲げた今年であったが、ここに来て勢いが失速してしまったことは否めないし、美濃部パルセイロにとって、本当の意味での正念場を迎えたと言えよう。

しかし、この逆境を乗り切れれば、美濃部監督が植え付けたサッカーが「本物であった」という証になるのだが、その反面でここを乗り切れず流れに流されてしまえば、残念ながら「それまでだった」という評価に甘んじることになる。そしてここから先の数試合の結果によって、来年戦う「カテゴリー」も決まってくるはずなのだが、果たしてどうなっていくだろうか…

そんな中でクラブには、不調であるとはいいながらも、高いポテンシャルがあると信じている。早いもので、このクラブを見だして10シーズン目になるが、多くの選手が今年1年で伸びたのではなく、地域からJFL、JFLから現在という流れの中で、対戦相手に勝つだけではなく、クラブの中で厳しい競争をした上で戦力として勝ち残ってきた選手たちなのだからこそ、ポテンシャルが低い訳がない。結局のところ、今の不調とは上に記した様に細かい要因はいくつかあるのだが、それを覆そうとする中で「もう一歩前でプレーしよう」という勇気を持ってプレーすることが、復調への近道となっていくはず。だからこそ、美濃部監督も、そしてチームを支えるサポーターも、「信じる心」を持って、この正念場を支える力となってもらいたいし、これをなんとか乗り切って、さらにJ2入りにふさわしいクラブになってもらいたいものである。

2014年3月27日 (木)

ライバルとの神経戦を制した長野

J3リーグが開幕して3週目。そして長野パルセイロは3節目にして初めて「県内ホーム初開催」の日を迎えた。



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ここまでの成績は1勝1分とまずまずの滑り出し。昨シーズン、天皇杯でJクラブを連続撃破し、さらに横浜Fマリノスとも接戦を演じたことで、完全に全国区のチームとなった感もある長野。そんなこともあり、成績もそうだが内容という面でも周囲の目は良い意味でも厳しくなった今シーズン。そして今季はついにJ2への挑戦となるシーズンだが、昨年と同じようなサッカーを求めるだけではいけないことをクラブはよく理解していた。



いや、これまでと同じではダメなことは、どのチームも感じていることでもあった。昨年は同じ相手と2回しかやらないレギュレーションだったが、今年は3度の対戦があるため、相手も対策をしっかり練ってくるし一筋縄ではいかないリーグ戦となってくることが予想される。だからこそ、シーズン最初の「1巡目」は手の内を全部見せたくないし、相手がどう出てくるかを伺いながらの「手探り状態」ともいえる試合が展開されていると言えるだろう。そしてこの長野vs金沢という、北信越時代から続くライバル対決は、まさに「探り合い」と呼ぶにふさわしい、じりじり感の強い試合となったのだ。



実は両者の対戦は今季2度目となる。開幕前のトレーニングマッチですでに対戦しているのだが、金沢の堅守&カウンターの前にいいようにやられてしまい1-4で敗戦。その時の印象の強かった美濃部監督は、このゲームでは相手2トップのケアをポイントに置いていた。そしてゲームの方だが、やはり序盤に主導権を握ったのは金沢だった。昨シーズンは「これでもか!」と繋ぐサッカーを目指して来た金沢だが、今季はかつてJFL昇格を決めたシーズンのような堅守速攻型に姿を変えて来た。



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J2リーグの経験もあり、正確なロングフィードもできる太田を町田から獲得するだけではなく、群馬から保崎、鳥取から辻などの即戦力を補強し、チーム力を上げ、こちらも同じく1勝1分と上々の滑り出しを見せた金沢。そしてこの試合でも、これまで積み重ねて来た繋ぐサッカーと、前線を走らせた速攻型をうまく使い分けて長野ゴールに迫っていく。3分に辻がファーストシュートを放つと、続く5分には保崎のオーバーラップからチャンスを掴み、CK、FKを挟んで厚い攻撃を仕掛けて行く。



確かに相手のやり方はある程度予想していた。だが、金沢の試合の入り方が想像以上に良かった事もあり、長野は前節同様後手を踏んだような立ち上がりとなってしまう。しかし、さすがに昨年からの積み重ねのある守備は落ち着きのある対応を見せ、なんとか凌いで行くとじわりじわりとゲームの流れを押し戻して行く。



試合前のミーティングで攻撃におけるポイントとしていた上がっていた相手の4バックと、4枚の中盤が作り出す2列のブロックへのアプローチ。それに対して、高橋が狙いどおりの動きを見せたことにより、徐々に相手ブロックにスペースが生まれ始めた。試合後の美濃部監督は「高橋が何度かオフサイドに引っかかりましたが、あれこそが彼の持ち味だし、彼がスペースを狙って走ってくれることにより、相手のブロックに揺さぶりをかけ、縦やヨコに隙が生まれてくるのです」と語ってくれたとおり、決定機とまでは行かなかったものの、高橋の動きが突破口を切り開くこととなる。そして31分、左サイドから抜け出した宇野沢が技ありのループシュートを狙うなど、試合の展開は完全に五分と五分のがっぷり四つの展開へと変わって行く。



見る人にとっては「退屈な展開」だったかも知れない。しかしピッチレベルでは、「ミスをした瞬間にやられる」ということを意識する選手たちの緊張感がビシビシ伝わるゲームが繰り広げられていた。さすがにお互いをよく知る両チームだからこそ、しっかりスカウティングをしてきたこともあり、前半は神経戦ともいえる緊迫した探り合いの応酬が続いた。そして後半に入っても、どちらがペースを握ったとは甲乙つけがたい展開が続く中で、「エースの意地」が拮抗した試合に終止符を打つ。



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64分、大橋のビルドアップから左サイドの高野を経由して、前線に走っていた宇野沢に浮き球が入る。相手DFの太田との競り合いとなったのだが、宇野沢は非常に難しい体勢だったにも関わらず右足を伸ばしてアウトにひっかけるとボールは見事なループを描いて金沢ゴールに吸い込まれて行った。3戦目にして今季初ゴールとなった宇野沢。やはり今シーズンになってから結果(ゴール)が出ていなかったことを本人は気にかけていた。そして今季初となる「長野」でのゲームということもあり、ここで決めたいという思いを強く望んでピッチに立っていたのである。



そしてエースの初ゴールで、さらにエンジン全開となるかと思われた長野だが、思わぬ落とし穴が待っていた。両サイドからの攻撃に対してはしっかり対応していた長野でディフェンスだが、73分にボランチ山藤から中で短く繋ぎ、最後は佐藤がミドルレンジから思い切りよく狙うとこれがゴールに吸い込まれ、金沢が同点に追いつく。



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試合後の大橋は失点シーンに対して、「先制してから10分ぐらいの時間帯はもっと集中しないといけないし、中で素早く回されたときの対応とかも、チームとして対応を良くして行く必要がある」と語ってくれたが、あのシーンはどの選手も「ここでは打たないだろう」と判断したことにより隙が生まれ、そしてある意味フリーの状態でシュートを許してしまった。



確かに得点を決めた佐藤は、中京大時代から東海リーグのみならず、大臣杯、インカレなどの大舞台で活躍するなどポテンシャルが高いことはわかっていたのだが、やはりあの場面は大橋、有永のボランチコンビのどちらかが、もっと体を寄せに行かないとやられてしまう可能性がアップする。これから「さらなる上」を目指す長野にとって、この日の失点はある意味でいい教訓となったともいえるのではないだろうか?



さて振り出しに戻ったゲームだが、先制点を奪った長野もリードした直後に守備面での集中をやや切らしてしまった感もあったが、追いついた金沢もまた同様であった。1-1となった直後の78分、CKのチャンスにニアに入って来た宇野沢がフリーで合わせ、再び長野が勝ち越し。



セットプレー時において、金沢の守備はマンマークではなくゾーンの形を取っていたが、あの場面は宇野沢の見事な動きに翻弄されてしまい、フリーにしてしまった時点で勝負ありだった。また、この時のCKのキッカーが大橋であったことも忘れてはならない。本来のキッカーである向がベンチに下がった後であり、誰がキッカーになるのか? と思っていたのだが、練習で向についでキッカーをやっていた有永が行くのかと思っていたのだが、美濃部監督は「ハシ、(オマエが)行け」と指示を出したのであった。試合後の話の中で監督は「本来ならあの場面、有永に行かせるつもりだったのですが、なんか直感でハシだ!と言ったんですよね(笑)」語ってくれたが、これが見事に決勝ゴールに繋がるところも「持ってるなあ」と感じるところでもあった。



そして最後は、金沢に押し込まれる場面を迎えたが、伊東、野澤という守備的役割をこなせる中盤の選手を投入することで、ピッチ上の選手に「逃げ切るぞ」という明確な指示を送り、しっかりとゲームをクローズさせて2-1のままで長野が逃げ切り、県内ホーム初戦を勝利で飾る事に成功。



さてゲーム全体に関してだが、やはり目についたのが両チームとも、本当に相手をよく研究しているということであった。しっかりとしたスカウティングを行うことで、相手のストロングポイントを消した上で活路を見出すというやり方だが、この日のゲームは上記にもあるとおり「神経戦」とも言えるような探り合いが続いたのだが、これこそが「3回戦制」ゆえに生まれた攻防かもしれない。ホーム&アウェーの2回戦制であれば、また違った形になるかも知れないが、同じ相手と3度やるということは、周囲を考えている以上に現場レベルでは難しいことでもあるのだ。



そしてこのレギュレーションだが、当初は戦力差のあるチームとの対戦だとしても、3巡目に当たった時には「その差」をひっくり返せるかも知れないという「おもしろさ」もあると思うのだ。かつてJ2が3回戦制だった時代も、最後は相手を徹底的に研究し、対戦相手専用ともいえる形をやってきたチームも存在していた。そう、この3度当たるということは、たとえ実力差があってもひっくりかえせる可能性が非常に高まってくるのである。それと同時に「追われる立場」のチームにとっては、ある意味で非常にやっかいなレギュレーションでもあると言えるだろう。



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特に昨シーズンのJFLチャンピオンである長野は、まさに研究される立場にある。よって、2巡目以降は特に難しい戦いとなってくるかもしれない。当然ながら、エース宇野沢に対するマークは昨年以上に厳しくなっている。だからこそ、新加入の高橋にかかる期待は大きいし、またベンチスタートとなっている勝又、三根、田中恵太もそうだし、最近の練習試合で結果を出している松尾などがいつでもスタメンに出られるようでないと、「さらなる進化」には結びついて行かない。



J3で優勝することはもちろんだが、優勝することと同じレベルで「上でもしっかり戦えるチームにすること」を目標に掲げている長野。そんなクラブであるからこそ、マークがどんどんきつくなってくるのだが、その中でどう勝ちきれるチームに成長していくかも見続けたいポイントと言えよう。

2014年3月21日 (金)

復活の時を迎える相馬ゼルビア

かなり時期を逸してしまった感が強いですが、先日の日曜日に行われた町田 vs 長野の試合は予想どおりの好ゲームになったので、簡単に振り返っておきたい思います。

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さて昨シーズン、2戦とも惨敗となり、いろいろな意味で節目となってしまった町田からみた長野戦。そんな町田だが、再び相馬監督を迎え、大物補強こそ無かったが地味ながらもピンポイントの補強を行い、しっかりファイト出来るチームを目指して準備して来た。シーズン前のトレーニングマッチで見た時も、「昔の繋ぐサッカー」のイメージはあまりないな… と感じていたのだが、その反面で「後ろに引かない戦うサッカー」をしてるという印象を受けたのだが、この日のゲームでも長野相手に一歩も引かない試合を展開し、大きく変わったことをアピール。

それに対して長野は、試合立ち上がりは町田の気迫に押し込まれ完全に受けに回ってしまう。20分まで相手に押し込まれる展開が続いたが、中盤の両ワイドを外側ではなく内に絞った位置どりに変える事で町田の遠藤、大竹の動きに対応しだし、徐々に流れを押し戻して行き、後半は概ね自分たちのペースで試合を薦める事に成功。また今季新たなるターゲットマンとして、戦術の幅を広げるためのキーマンとして期待のかかる三根をデビューさせるなど、ドローと終わった試合の中でもしっかりと次への種をまくことを忘れなかった。

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まだシーズンに入ったばかりということもあり、両者ともまだまだ未完成という部分が強かったし、両監督も「チームの熟成度はまだまだですよ」と話はしていたものの、やはりこの2チームがリーグの中で抜きん出た存在である事はアピール出来たはず。切り替えの早いスピーディーなゲームを展開に、倒れればファール! ではない、ワンランク上のフィジカルコンタクトなど、JFLとは違うんだというところを内容でもしっかり見せようとしていたことは評価していいだろう。

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ただひとつ、残念だったのはピッチ状態が非常に悪かったこと。野津田のピッチ状態が2月の大雪の影響を受けたことにより、芝が根付いていないというか、フニャフニャな状態であり、ちょっとでもグッと足に力を入れるだけで芝が大きくめくれてしまうという悪コンディション。そんな状態ということもあり、両チームの選手は、普段なら簡単に踏ん張りが効くような場面で足を取られてしまったり、ボールがスムーズに回らないなど、思うような試合をやれないもどかしい90分間となってしまったことは否定出来ない。

そして両監督は試合終了直後、ピッチ上で「今度はもっといいピッチで試合をしたいね」と、笑顔で再戦を誓ったのである

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本当にサラっとだが、先日の町田vs長野を振り返ってみたのだが、やはり試合前に予想したとおりの緊迫感のある好ゲームになったこの試合。昨年は思わぬ大差がついてしまったこの対戦だが、やはりリーグを盛り上げるために、互いが「好敵手」と思える相手がいないとおもしろくない。そんな中で、長野は順調に今年も成長を続けているが、それに対して町田はライバルに「追いつけ追い越せ」で凄いスピードでチーム力を高めつつある。

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いや、チーム力は元々高かったはずである。相馬監督が作ったチームにポポヴィッチ氏が自分流のスパイスを加え、その時点で過去最高のクオリティを誇るチームに仕上げた「はず」だった。しかし、アルディレス、そして秋田前監督の2人は残念ながらそのクオリティを維持することも成長させることも出来なかった。

そんな中で、再び相馬監督を迎えて「かつての輝き」を取り戻そうとする今季の町田。だが、新監督はポポヴィッチが作り上げたボールをしっかり回す魅力的なサッカーとは違うサッカーを目指している。確かに「魅力的なサッカーやりたい」という到達地点は同じだが、そこにたどり着くまでに再び「強い気持ちをもって戦えるチーム」にしないといけない。その中で改革を行い、引かぬ、下げぬ、恐れぬという意識を徹底させ、昨年のような「迷いながら」のサッカーから脱却した相馬ゼルビア。昨年のように弱いメンタルであったら、後半に押し込まれた時点でゴールを決められ、そこで勝負ありだったであろうが今年は違う。

J2昇格争いの注目を集めるのは長野ばかりではつまらない。一歩先行くチームに待ったを掛ける存在ではなく、J2を経験した「先輩」として、ここら先どこまで町田が存在感を出せるかにも注目して行きたい。

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