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2016年4月10日 - 2016年4月16日

2016年4月14日 (木)

新たなる挑戦に出た神川監督

先日の日曜日、やっと今季のグルージャ盛岡を見ることが出来た。

今シーズンのJ3リーグで、実は最も注目していたのはグルージャ盛岡であった。そして、なぜ注目かと言えば、関東大学リーグ、そしてインカレなどを制し、天皇杯では次々とJクラブを打ち破った学生サッカー界の名門、明治大学サッカー部を率いた、神川明彦氏が監督に就任したからである。

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明大サッカー部監督時代、「いい素材なんだが、あともうひと伸びすれば…」という選手たちを、何人も見事な選手に育て上げ、明大全盛期を確立した名将であり、大学サッカー界の主人公の一人でもあった神川明彦氏。そして大学サッカー界と言えば、流経大の中野さん、駒大の秋田さん、福大の乾さんなど、ロングランで指導を続ける名物監督が多く、神川監督もそんな先人たち同様に「永久監督」として明大に関わり続けるかと思われた。しかし、S級ライセンス取得でチームから離れる時間も増え、肩書きも「総監督」に代わり、ユニバーシアード代表監督に就任する際には、大学側に「休職届」を提出するなど、退路を断つ覚悟で次なる展開を模索していた。

そして神川監督は昨年11月、学生時代から合わせて30年という、長い月日を共にした明治大学に別れを告げ、J3リーグ・グルージャ盛岡の監督に就任という驚きのニュースが飛び込んできた。昨今ではプロ選手経験者のない人や、プロクラブでの指導歴の少ない人が就任することも珍しいことではなくなって来たが、元桐光学園の佐熊監督のプロ挑戦以来、久々に学生サッカー指導者からの挑戦者が現れた。明大サッカー部という、慣れ親しんだ場所から「立場を追われた」という訳ではなく、本人が望めばその立場は永久でもあった。しかし神川明彦は、その立場に甘んじるのではなく、チャレンジという新しい一歩を選択した。 だからこそ、この機会に「なぜそんな選択にたどりついたのか?」を聞きたかったし、メイジ全盛期を作り上げた監督が、お世辞でも強いチームとは言えなかったグルージャを、どう変えて行こうとするのかこの目で確かめたかった。

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さて、注目していた神川グルージャの新シーズンだが、ここまで3試合を終えて勝ち星ナシで最下位に沈んでいた。そして迎えた相模原でのアウェイゲームだが、結果的にスコアレスドローに終わり、この日も初勝利を挙げることは叶わなかった。しかし、貴重な勝ち点1を手にしたことで最下位脱出に成功したが、そんなこと以上に、この日見せたグルージャのサッカーは、大いに可能性を感じさせたことは勝ち点以上に大きな収穫であった。 J3に参入して3シーズン目のグルージャだが、これまでのサッカーは「どうすれば対応出来るか?」を考え抜いたリアクションサッカーをベースにやって来た。しかし神川監督はこのクラブでも、明大でやってきたハードワークしながら高いラインを保ち、自分たちが積極的にアクションを起こし、「繋いで崩して」を繰り返すサッカーを盛岡でもやろうとしている。

しかし、グルージャというクラブは間違いなく明大サッカー部の環境よりも劣る。練習環境もそうだが、ユース年代で名を馳せ、プロにも行けたのでは?と言われるような逸材が集まった明大サッカー部とは違い、グルージャはまさに雑草軍団である。神川監督が就任したからと言って、すぐにあの時代と同じような強いチームになる訳ではない。たが明大時代もそうであったが、名将と言われる裏には戦術論以上に、モチベーターとしての力量も見逃してはいけない。この日もいい流れを何度も作り、決定的場面を何度も作り出したが、なかなか得点を奪えない。そんな中で自信を失いそうになる選手に「やり切れ!」と声をかけ続けた。

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いろいろなカテゴリーを見る中で、カラーの違う監督を何人も見てきた。試合中も寡黙な表情を崩さず微動だにしない人、感情を露わにして動き回る人、状況を判断してその都度細かな指示を出す人、すぐに怒ってしまう人…本当に監督とは十人十色。そんな中で神川監督は、感情が出るタイプではあるが、決して怒り散らす人ではなく、厳しい時間帯でも選手と一緒に戦い、そして檄を飛ばす熱血指揮官でもあり、言うなれば司令官として上からクールに見るのではなく、部下とともに前線で共に戦う部隊長のようなタイプ。だからこそ、明大監督時代から惹きつけられてきたが、プロ監督になってもそのスタイルに変わりはなかった。

しかし、まだ神川グルージャは結果を出てはいない。だがチームは限られた戦力の中で、しっかりと成長の爪痕を残し始めていることも確かだ。ただ守って、長いのを前線に入れるだけからの脱却も進んでいるし、明大時代から、フェアプレーの徹底を説いてきた神川監督のチームらしく、レフリーに何度も異議を唱えた相模原の選手とは対照的に、グルージャの選手には そのような場面はなかった。確かに、4試合を終えての勝ち点はまだ1。だが神川新監督の下、新しいグルージャは「こういうサッカーをやるんだ」というものを、しっかり表現し始めている。 そしてもう一つ、プロ監督してやりたいこととして挙げていた、クラブの土台作りというものにもトライしようとしている。

グルージャというクラブが、盛岡や岩手という土地で根を張るにためには、まずしっかりとしたサッカーをやることが大事と考え、トップチームの改革に乗り出しているが、それと同時に学生を指導してきた監督らしく、育成にも力を入れるべく下部組織の整備に対しても余念がない。 このように、トップチームの強化を図りながら、下部組織の整備も進めるとなると、これは1年や2年で済む話ではない。そう考えれば、今の時期は目先の結果ではなく、まずサッカーの「質」というものに注目してあげたいところ。そして神川監督は「もう少しメイジの香りがするサッカーをやりたいし、それを体現できる選手は欲しいよね」とも語ってくれているので、これから先は、より「神川色」が強まっていく補強状況にも注目していきたい。

さて最後に、なぜ明大監督という「安住の地」を捨て、環境的、財務的にも万全ではないグルージャ盛岡の監督という立場を選んだのかを、神川監督に直接伺ってみた。

『長い間、僕は本当に“明大”という場所で、いろんな人に世話になってきましたが、最近になって僕は自分が育てた選手たちから「教わること」がたくさんあったことに気がついたんですね。長友なんか、今や世界のスター選手じゃないですか? でも彼はそんな座に甘んじることなく、常に前向きにチャレンジしている。長友だけじゃなく、多くの教え子たちもどんどんチャレンジしていますが、そんな姿を見て「人にはチャレンジしろと言って、じゃあ自分はいったい何をしているんだろう…」と。そこからですね、自分も新しいことにチャレンジしなければいけない!と思ったのは。

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それがきっかけで、S級にチャレンジしようということから始まりました。しかし最初に受講を希望した2009年は、受講する前に行なわれる受講者選考の段階で落ちました(笑)。そして大学2冠や天皇杯でのJクラブ撃破を経て、やっと2011年に受講することが出来ましたが、久しぶりに「教える」から「教わる」立場に変わるとうまく行かない(笑)。その際には恥ずかしい思いも沢山したし、インストラクターの方にはいろいろ迷惑をお掛けしてしまい、出来の良い受講生とは言えなかったと思います。まあそれでも、なんとかS級を取得出来ましたし、その後はユニバーシアード監督などを経て、明大以外での活動も増え、さらにチャレンジしたいというか、次の仕事をどうしよう? という時期を迎えていたときに、幸いにもいくつかのオファーをいただくことが出来ました。

そしてその中には、グルージャ盛岡の副社長である平川さんからも連絡もありました。その後、それぞれのお話を伺いましたが、僕は都心部のクラブではなく、まだこれからという地方クラブで、トップチームの指導だけではなく、アカデミーも含めた土台作りもしたいと考えていたので、グルージャさんのオファーが一番自分の理想にマッチしていたこともあり、今回監督という職を受けさせていただきました。 まあ、大学の指導者と言えば、長く勤めている方も多いですが、僕のような変わり者がいてもいいと思うし、他の学校の指導者の中でも同じような夢を持っている人もいるからこそ、やってみようと思ったし、僕が一石を投じることにより「神さんがやれるなら、じゃあ続いてみたい!」と思ってくれることも期待しているんですよね。

まあチームとしてはまだまだですが、全員がハードワークしながらもフェアプレーをモットーに、魅力的なサッカーをやれるクラブにしていきますので、今後もよろしくお願いいたします!』


このように語ってくれた神川監督。

本来であれば、明大監督として、安定した生活も約束されていたはずなのに、敢えて「チャレンジする」という、冒険に出た。確かに全ての環境が揃っているメイジに比べ、盛岡では苦労することも多いだろう。しかし、ただチームを強くする監督という役割だけではなく、地域の活性化や新しい世代の育成というように、GM的役割にも関われるこの地は、彼にとってまさに「願ったり叶ったり」の場所でもあったのだ。

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まだもう少しの間、苦労が続く時間になるだろうが、クラブもサポーターも長い目で、神川明彦の挑戦を見守って欲しいところでもある。

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