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2014年9月 6日 (土)

信じる心が生んだ奇跡の試合

J3リーグは第23節から、今年の集大成となる第3クールに突入。そんな中で首位町田ゼルビアはアウェーの地で3位長野パルセイロと対戦した。

22節では琉球に不覚を取ったものの、第2クールでも質の高いサッカーを見せて首位の座をしっかりキープし続けていた町田。それに対して長野は、天王山と目されていた前半戦最後のゲームとなった第17節・アウェー町田戦を0-1と落としてしまったのだが、そこからは不安定な内容に終始してしまっていた。確かに、対戦相手に研究されてしまったことは間違いない。22節の相模原戦でも、これまでの不振を引きずったかのようなゲームを前半はやってしまったのだが、試合後の相模原・木村監督も「相手の自由を奪って流れを引き寄せるところまではプラン通りだった」とも語ってくれている。このように、「追われるもの」の苦しみと直面し続けていた長野だが、相模原戦の後半から出場した一人の存在がチームを変えた。

それは松尾昇悟。

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このチームの中で、たぶん彼以上に「どん底」という現実を見て来た選手をいないのではないかと思うのだ。国士舘大学卒業後は、Jクラブには入れなかった。そしていくつかテストを受ける中で、彼が最終的に入団したのはアルテ高崎だった。今はもう存在していないこのクラブだが、選手を取り巻く環境は本当に最悪であり、長野のようにクラブや協賛企業が選手の生活面までサポートしてくれるなんていうことは当然なかった。また成績の方も、毎年の様に降格との背中合わせな状態が続き、Jリーグに昇格していくクラブが生まなければ、とっくに関東リーグに降格していてもおかしくはなかった。そして彼がアルテ在籍時には、地域リーグチームとの入れ替え戦(三洋電機洲本戦)まで経験している。

だがそんな「(チームではなく、クラブ運営組織として)ど底辺」と呼べるようなクラブであったが、松尾は後藤義一(現・東京国際大学コーチ)という素晴らしい指導者と出会うことで、成長するきっかけを掴み、そして彼から薫陶を受けることで選手としても、人としても成長し、「ここから這い上がってやる!」という、むき出しの闘志を見せることで他チームからも認められる存在となり、長野への移籍というステップアップを勝ち取れた。そんな彼だからこそ、素晴らしい環境があり、選手としても高いレベルがありながらも、もがき苦しむチームの状況を憂いていたし、誰よりもどうにかしたいという強い気持ちを持っていた。

だからこそ、出番が回って来てからは、誰よりも声を出し、「ここだよ」「今(この時間で)点を取らないでどうするよ?」と全員にハッパを掛け続けた。そして彼が入った事により、あれほど沈黙していた全体の運動量がよみがえり、どんどん前からプレスを掛けられる様になっていた。そして流れを掴んだ中で値千金のオウンゴールが生まれたのだった。

もし相模原戦で勝ち点3を奪えなければ、限りなく大ピンチであった長野。だが、松尾の気迫がチームの雰囲気を一気に変えてくれたのである。そして町田戦を前にして、松尾、佐藤、宇野沢のFW陣3人は気合いを込めた丸刈りにして挑んで来たのであった…

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そして試合だが、もう今更細かく語る必要もないと思う。
これまでの不安定なサッカーの影なんて、この試合にまったくなかった。正直ここ2シーズン、かつてほどの輝きが消えてしまうかのようなプレーも増えていた大橋だが、この日は「そんなことを言ってごめんよ…」といいたくなるほど、アグレッシブにボールを奪い、終始高い位置でプレスを掛け続けてチーム躍進の「心臓」として獅子奮迅の活躍を見せた。また、佐藤もこの日は労を惜しまない前線からの守備を見せ、攻守に渡ってキーマンとして活躍。

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これまで長野は「パスサッカー」がコンセプトであったはずなのだが、この日のサッカーは、迫力満点の「超プレッシングサッカー」であり、こんなサッカーをやれるんだ? と、見るものすべてに驚きと可能性を見せつけたはず。そして町田ゼルビア・相馬監督も「立ち上がりから長野さんに押し込まれる展開になってしまい、自分たちのやりたいことをやりきれないまま終わってしまった」と語るなど、完敗を認めるしかなかった。

それにしても、これまでの不振、迷いとはいったいなんだったのだろうか? とも考えてしまうこの試合だったのだが、そんな試合の裏に指揮官が持ち続けていた「信じる心」の強さがあったことを忘れてはならない。

昨年は圧倒的な強さでJFL優勝を飾るだけではなく、天皇杯でもJクラブを連続撃破して、一躍その名を全国区として長野。だからこそ、今年は相手のマークもこれまで以上になったし、それが原因となりここ数試合では思うような試合が出来なくなってしまっていた。

そんな状況をどうするべきなのか?

美濃部監督も、ここ最近の苦しい状況に対して「どう対処すべきか?」はかなり悩んだ。選手を入れ替えたり、ここ数試合では3バックはいじらないにしても、前線を2トップにするなど、いくつかのテコ入れを図ったのはその現れだ。しかし美濃部監督は「戦術ありきで試合はしていないし、するつもりはない」「ウチの選手は普段の練習から全員が高い意識を持って練習に取り組んできているの、誰が(試合に)出てもおかしくはないと思っています。そして我々スタッフは、その中で特に調子がいいと思った選手を毎試合チョイスしています」と、繰り返し語って来ている。

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監督という職業は非常に難しい職業であり、そして孤独な仕事でもある。勝てば名将といわれるが、結果を出せなければ「無能」と、いとも簡単に言われてしまうし、その先にあるのは「クビ」という厳しい現実が待ち構えている。また、選手のメンタルをうまくコントロール出来なければ、使われない選手たちとの「壁」を作ってしまうもの。

そしてどんな名将であろうと、選手にやりたいサッカーはこうだ! ということは伝えられても、試合になってしまえば、自分自身ではどうすることも出来ないのである。だからこそ、監督という職業は最終的に「信じる」しかない。そして試合前の最後の短い時間、美濃部直彦は一人静かに選手たちの動きを見つめるのだ…

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そう、監督が最後に出来ることとは、選手を「信じてやる」だけなのである。そして美濃部監督は、この大事な一戦の前で、選手たちに「足が止まるまで、やれるかぎり前から仕掛けて行こう!」と選手に魔法の言葉をかけピッチに送り出すと、選手たちは「最高の答え」を長野の地で導きだしたのである。

この町田戦、信じる心が生み出した「奇跡」のような試合であった…

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しかしだ、その奇跡をこの1回だけにしてしまったら、何も意味は無い。町田を相手に、今季最高の試合が出来たことで満足していたら、この先にある目標までは到底たどり着けない。23節では2位金沢も勝利した事で、首位との勝ち点差こそつまったが、置かれている(3位という)状況も結局変わってはいない。だからこそ、残された10試合でこの日見せたアグレッシブなサッカーをやり続ける必要がある。そしてそれをやり続けることによって、「やっぱり長野は強い」と周囲にもアピールする必要がある。

泣いても笑っても、残りはあと10試合。首位町田がこのまま逃げ切るか? はたまた2位金沢、3位長野の逆転はあるのか? 町田戦での長野のパフォーマンスを見るかぎり、2位以内に入ってくる可能性は高いとは思われるが、大事なのは明日の秋田戦でも同様に素晴らしいパフォーマンスを見せられるかである。そしてもう一つ大事なこととして、クラブを支えるサポーターも長野市開催同様に「佐久のスタジアム」をオレンジ一色で埋められるか? ということが大事な焦点になってくる。

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勝利を求められるチーム同様、サポーターにとっても大一番となる佐久開催での秋田戦。決戦まで24時間を切っているが、結果は果たしてどうなるか?

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