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2013年5月17日 (金)

北信越で実現した師弟対決

かつて「無駄に熱い」と呼ばれた北信越リーグ。だが、当時4強と呼ばれたチームのうち、3チームが卒業していくと2011年シーズン以降は普通の地域リーグになったかと思われたのだが、再びこのリーグに熱い戦いが帰って来た。

かつての4強の一つであるJAPANサッカーカレッジ(JSC)に、昨シーズンリーグ初制覇を達成したサウルコス福井、そして1部昇格3年目にして初優勝を狙うアルティスタ東御の3チームによる戦いだ。その中でも、昨シーズン優勝を果たしたサウルコスは大物選手の補強こそなかったものの、昨シーズンのJFL最優秀監督である、前V・ファーレン長崎監督である佐野達氏をGM兼任監督として招聘。さらにアルティスタは、佐野が監督をしていた長崎のヘッドコーチだった堺陽二を監督に招き、今季は「まさか」の師弟対決が北信越の地で実現することとなったのである。

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さらに佐野と堺と言えば、長崎での関係だけではなくザスパ草津での関わりも忘れてはならない。2005~06年までは選手とコーチ、07年からは新米コーチとベテランコーチ、そして2009年は監督とコーチとして、5年間群馬の地で一緒に成長してきた仲間であった。また、何よりもザスパの前身であるリエゾン草津から唯一Jリーガーになった堺の存在を、実力だけではなく人柄的にも評価していた佐野は、常に自分のそばに置いてきた。

これまでは「先生と生徒」「部下と上司」と言ったような関係であった2人が、場所を変えて今度は「対等な立場」で激突することとなったのである。

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ここまでの両者の成績だが、サウルコスは4戦全勝で首位を走り、アルティスタは降雪の影響で1試合未消化だが、こちらも3戦全勝で暫定2位(もう一つのライバルであるJSCは3勝1敗)。

地元出身の元Jリーガー、梅井大輝をはじめ、10人の選手が新加入となったサウルコス。佐野体制一年目ということもあり、それなりにチームに変化はあったものの、予算の都合もあり他地域のライバルクラブのような大型補強とまでは行かなかった。しかし、それでもS級保持者であり、Jリーグ、JFLで指揮を執った佐野の手腕は注目であったし、「どう変わったのか?」がこの日のポイントであり、そんな変わったライバルに対して、「熟成」を選んだアルティスタがどう挑むのかも楽しみでもあった。

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さてゲームの方だが、ともに4-2-3-1とベースになる戦い方はまったく同じ形であった両者。だが、10番坂井のゲームメークと、梅井のロングフィードを軸に攻撃を展開するサウルコスが立ち上がりからペースを握っていく。それに対してアルティスタは、ボランチの三橋、土屋の「元パルセイロ組」が勢力的に動き回り、流れが悪い中でもしっかりと相手の攻撃に対応していく。また、トップ下に入った元松本山雅の斉藤も随所でベテランらしいしぶい動きを見せ、傾きそうな流れをうまく食い止める働きを見せる。

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そんなゲーム展開の中で、最初に決定機を迎えたのはアルティスタだった。37分にカウンターからチャンスを掴み、左サイドを抜け出した藤丸が絶妙のクロス。フリーで石戸が入ってきて頭で合わせるも、ここは惜しくも枠の外でチャンスを逃してしまう。

結果的に、前半はサウルコスが終始ペースを握ったものの、両サイドのスペースをワイドに使う「佐野好み」な攻撃を繰り出す事が出来ず、優位に試合を運びながらも決定機を作り出せないまま、スコアレスで後半戦に突入していく。

そして後半だが、いきなりサウルコスは危ない場面を迎えてしまう。49分にGKがバックパスの処理をもたつく間に、相手のプレスを受け「あわや」というシーンが生まれてしまう。そしてその直後の50分、今度はDFのパスを西井がカットすると、素早く中へ入れると藤丸が合わせて劣勢だったアルティスタが先制点を奪っていく。

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それにしても、なんともお粗末な失点シーンであった。失点の直前にバックパスの処理にもたついていたのだからこそ、GKもDFラインも集中した動きをしなければいけない場面であったのに、立て続けに緩慢なプレーを見せてしまってはどうにもならない。そして「もう一度あるかも」と感じ、プレッシャーを掛けにいった西井の動きは実に素晴らしいものであり、この1点が試合のペースを一気にひっくり返すこととなる。

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リードを奪ったアルティスタだが、三橋、土屋がセカンドを完全に制圧し、サウルコスに思うようなゲームをやらせない。そしてセカンドを奪っては素早い攻撃を仕掛けて、再三サウルコスゴールに迫っていく。しかし、ホームでは絶対に負けられないサウルコスも必死の反撃を見せ、70分に坂井の縦パスから、抜け出した亀山が起死回生の同点ゴールを奪う。

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こうなると、ホームであるサウルコスの方に流れが移って行くかと思われたが、この日のアルティスタはここから粘り強さを発揮。同点となってからはしっかりブロックを形成し、カウンター主体のサッカーに切り替え、うまく相手の攻撃に対応。そして何よりも、「佐野のサッカー」を知る堺だからこそ、「ワイド」を使わせないうまい守り方を見せていく。

そんな守備を見せる相手に対して佐野監督からは、驚きの言葉が出たのだった。

これまでの草津や長崎の時には、ワイドな攻撃を仕掛けろという意味を込めて「幅っ~~~~~~あ!」「オーガナイズ!」という言葉を連発していたが、この日は「狭く!」という予想外の指示を飛ばしていたのであった。

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佐野監督の予想外な言葉が出たこの状況の中で、残念ながらホームのサウルコスに決勝点を奪う力はなかった。アルティスタも「アウェーで勝ち点1は決して悪くはない」ということもあり、無理をせず終盤はリアクションの姿勢を崩さす、初の師弟対決となったこの試合は結局1-1の痛み分けで終了となった。

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さて、試合後に「狭く!」の意図を佐野監督に問うと、このような答えが返ってきた。

「本当はもっとワイドを有効に使った攻撃をしたいですよ。でもね、今のウチのチームに相手の状況を見ながら、それが出来る選手がいないんだよね。狭くと言っても、中央を狙えという訳ではなく、自分たちがしっかりやれるスペースで、やれることをしっかりやりなさいということなんだけど、セカンドもほとんど拾えずに苦しい試合になってしまったね。

前半のうちに2点は決められるチャンスがあったのに、そこで決めきれないから苦しい試合になってしまう、(失点時の)ミスが出てしまう。

今日の試合なんかさあ、今週ほとんど練習に出ていない選手が試合に出ているんだよ。信じられる? 仕事の関係もあってどうしても練習に出られないのは仕方が無い。でもね、練習に出ていない選手をスタメンで使わざるを得ないというのもちょっとねえ…

まあ、僕がチームを見だしてからまだ時間も短いですし、これからですよ。関心を持ってくれるお客さんももっと増やしてかなければいけないし、もっと地元に対して知名度を上げていかなければいけない。クラブの環境も良くしてかなければいけないし、やることは山ほどあります。だからこそ、チームもクラブも良くなるまで時間がかかるかもしれませんが、まずはもっとゴール前でのシーンが増えるような見ていて楽しいサッカーが出来るようにトレーニングしていきます」

正直、佐野監督らしいサッカーが出来なかったサウルコスだが、この日に限っては「相手」がやや悪かった気もする。佐野サッカーを最も知る男であり、現役時代は華のあるプレーヤーではなく、必死さ、泥臭さがウリだった堺陽二のチームである。そしてヨージは試合後「こうじゃないサッカーをやりたいんですけどね」と、苦笑いしながらこう続けてくれた。

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「本当はね、もっと違う形(攻撃的)でやりたかったのですが、今日はまあ相手のホームだし仕方が無いかなあとも思います、ただ、本当に選手は最後までファイトしてくれたし、特に後半はいい流れを作る事ができたので収穫だったと思います。

まあ、戦術的な部分でも、もっと取り組みたいと思うのですが、それは次の対戦の時に出せればと思います。あとは前半のやや消極的な部分が消えれば最高なんですけど…」

まだ監督に就任して時間は短いものの、昨年とほぼ変わらないメンバー構成ながらも、昨年以上のチームに仕上げている感が強いアルティスタ。土屋や斉藤といったベテランに、関東大学リーグで戦ってきた若い選手がうまく融合し、かなりいい感じでチーム力をアップさせてきていることを強く実感させてくれた。どこでプレスをかけに行き、どこで奪うか? どう攻撃を仕掛けるか? という約束事が徹底されてきており、この日の戦い方を見る限る、実は今年の優勝候補はアルティスタなのでは? と感じてしまう部分もあったほどだ。

もし、今週末に行われるJSCとの試合で勝てば、一気に優勝候補に躍り出る可能性もあるアルティスタ。選手としてはJリーガーになれたものの、FWとして結局ゴールは奪えなかった。ある意味で悔いも残った現役生活だったかも知れないが、サッカー人としての「第二の人生」は実にいい滑り出しのように感じられたのであった。

さて、試合後の佐野監督に戻るが、ヨージとの再会の後にこんな言葉も残してくれた。

「ヨージがしっかりファイトするチームを作ってくれて、なんか原点を思い出したような気がしましたね。昔、自分が草津町でチャレンジャーズを指導していた頃を。

アルティスタのサッカーは、それに通じるものがあるし、やはり『必死さ、ひたむきさ』があったし、それの大切さを改めて感じた気がするし、懐かしさを感じたね…」

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佐野達が指導したチームの中で、最も厳しい環境の中にあると言えるサウルコス福井。GMという「全権」を持つ立場になった佐野だが、それは監督以上に難しい立場でもある。これまでのように現場を強くするだけではいいという立場ではない。時にはクラブのトップとして、時には営業マンとして、いろいろな顔を持って24時間クラブ運営に力を注がなければいけない。さらに、福井のサッカー熱はこれまでの群馬や長崎に比べて決して高くはなく、チームが置かれているカテゴリーも下(佐野がザスパ入団時はJ2)である。

長期的ビジョンを持ち、じっくりと行きたいところでもあるが、そう長い時間を掛けられるほど、クラブに「体力」がある訳でもない。難しい状況の中で、どう結果を出していくのか? どうクラブを変えていくのか? という、難しい問題に挑戦する佐野達。

決して平坦な道ではないと思うが、この日の相手が見せてくれた「必死さ、ひたむきさ」を、自分たちもしっかり持ち続ければ、夢で終わるのではなく、必ず現実のものとなるはず。

今は佐野達を信じ、彼の新しいチャレンジがどう進んでいくのかしっかりと見極めたいところでもある。

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2013 北信越サッカーリーグ 5月12日@テクノポート福井
サウルコス福井 1-1 アルティスタ東御
[得点者]
70分坂井(福井)
51分藤丸(東御)

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