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2012年1月 3日 (火)

努力が奇跡を生む瞬間

大会3日目となった昨日は、今大会最初の「ジャイアントキリング」が飛び出した。当然、その試合は西が丘で行われた市立西宮 vs 山梨学院大学附属高の試合である。

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試合前、市立西宮の勝利を予想する人は少なかったのではないだろうか? それは一般の方だけではなく、報道する側も同じであり、カメラマンの大半が西宮ゴールの裏にいたことがそれを物語っていた。まあ、山梨学院が優位であることに疑いはないし、今大会注目の一人である白崎凌兵がいることもあり、どうしても山梨学院中心に見てしまうものである。

そして試合後、市立西宮の大路監督も「一発目から山梨学院だよ…」と組み合わせ抽選が決まってから、選手がナーバスになっていたことを語ってくれた…

そんな状況の中で、兵庫県予選準決勝で昨年の覇者・滝川第二を破った市西宮は、本会初戦で2年前の覇者・山梨学院と激突。

[山梨学院スタメン]
ーーー名嘉真ー白崎ーーー
ー柳沢ーーーーーー木下ー
ーーー荒木ーー萱沼ーーー
金井ー藤原ー新潟谷ー山口  
ーーーーー山田ーーーーー

[市立西宮スタメン]
ーーー指田ーー大道ーーー
ー後藤ーーーーーー新井ー
ーーー難波ーー前野ーーー
山口ーー池上ーー帷ーー柳  
ーーーーー中野ーーーーー

試合の立ち上がりは、予想外にも西宮が相手陣内に攻め込む形でスタート。2分に前野がファーストシュートを放ち、直後の3分にはCKのチャンスを奪い、山梨学院ゴールに迫る。

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しかし、立ち上がりのラッシュを受けきった山梨学院は徐々にペースを握り出す。FWの白崎だが、この日は相手のマークが厳しかったこともあり、あえてやや下がり目のポジションを取って行くのだが、このプランが見事にはまり、相手守備陣をおびき出すことに成功し、空いたスペースに次々とスルーパスを通してチャンスを広げていく。

それにしても前半の攻撃だが、碓井(現駒澤大学)を擁して優勝を果たした2年前のチームよりも素晴らしいアタックを見せていた山梨学院。圧倒的なボールポゼッションに流れるような展開。これはゴールを奪うのも時間の問題かと思われた。そして18分、自らのシュートでCKのチャンスを掴んだ萱沼が頭で合わし、山梨学院がついに先制点を奪う。

圧倒的な攻撃力で相手陣内に攻め込む山梨学院。この1点が大量得点の呼び水となるかと思われた。事実、その後も白崎が繰り広げる「異次元のパス」が市立西宮守備陣に何度も脅威を与えていく。

だが、試合前に「白崎君とのガチンコのマッチアップをしてみたい」と語っていた西宮のキャプテン帷は、粘り強いディフェンスで対応。帷個人だけではなく、チームとして白崎対策を練ってきた西宮は「チャレンジ&カバーの徹底」とボランチを絡めた「サンド」で対応。

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その粘り強い守備に手を焼いた山梨学院は、前半で11本のシュートを放ちながらも結局はセットプレーでの1点だけにとどまってしまう。さらに西宮の粘り強い戦い方は前半終了間際に最初の奇跡を生み出すこととなる。

カウンターから活路を見いだしていた西宮だが、前半ロスタイムに入った直後に相手陣内に素早く進入。そしてこのチャンスでPKのチャンスを得る。絶好の同点機にスポットに立ったのは西宮はキャプテンの帷であった。

しかし試合後、帷本人が「バレバレでしたね」とコメントしてくれたとおり、PKはGK山田がドンピシャのタイミングでセーブ。しかし、弾いたボールが幸運にも帷のもとに転がり、これを押し込んで西宮が実にいい時間帯で追いついて後半戦に繋げていく。

結局は1-1のイーブンとなったが、山梨学院が繰り広げた前半戦の出来は吉永監督としては「今季最高」と評するぐらい素晴らしい出来であり、決して悲観するものではなかったのだが、白崎をはじめとした山梨学院の選手たちにとっては追いつかれたことが精神的に大きなショックとなってしまう。

ショックを隠しきれずロッカールームに戻る山梨学院の選手たちとは対照的に、西宮の選手たちの表情は自信に満ちあふれていた。元々、前半は相手の動きに食らいついて「0-1ぐらいでもいい」という感じでもあり、粘って後半勝負というプランを描き、相手が前がかりに来るので、その裏のスペースを狙っていこうという攻撃のプランもしっかり出来ていた。そんな中で最高の時間帯に同点に追いつき、当初は「どうやって強敵と戦うか?」とナイーブになっていた選手たちの表情が「自分たちはやれる」という自信に満ちあふれた表情に変わっていく。

そして後半の立ち上がりだが、山梨学院はいきなりのラッシュを仕掛けていくのだが、その姿は「1点のビハインドを背負った状況で残り5分」というような悲壮感を漂わせながら攻め込んでいく。

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試合は1-1のイーブンであり、まだまだ焦る時間ではないのに、とにかく「前に行こう」という意識だけが空回りしてしまい、前半のようにスペースを有効に使うのではなく、強引に中央をこじ開けようとする「力攻め」に終始してしまう山梨学院。

それに対して西宮の選手たちは非常に冷静だった。いや、冷静というよりは、まさに監督の頭に描いたゲームプランそのままの状況がピッチ上で繰り広げられていたのである。

前半は敢えて下がり目の位置をとり、相手DFやボランチを引き出してスペースを作り出していた白崎だが、後半に入ると「得点しなければ…」という焦りから前に張り付いてしまい、DF網の餌食となり「らしさ」が完全に埋没していまう。

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慌てる時間ではないのに、焦りから「らしさ」を失ってしまった相手に対して、西宮の選手たちは最後までゲームプランを忘れることはなかった。そしてこの冷静さが50分に実を結ぶこととなる。

選手権が始まる直前から、セレッソ大阪の練習に参加しているFWの後藤寛太が新井とのパス交換から見事に抜け出してど真ん中を突破。最後はGKの動きを冷静に見てからシュートを放ち、ついに西宮が逆転。

その後も鋭いカウンターで何度も山梨学院ゴールを襲い、77分にも再び後藤がスペースに抜け出し、2点目とほぼ同じ形から試合を決定づける3点目をゲット。

もう、見事としてか言いようのないゴールであった…
山梨学院は「これでもか!」と何度も連続攻撃で相手ゴールに迫るが、前半のような戦術やアイディアを欠いてしまい、真ん中を固める西宮ディフェンス網にひっかかり、フィニッシュにすらたどり着けない。それに対して、冷静かつ華麗に相手の裏を狙い、針の穴を通すかのような正確な1本のパスで相手DF網を破った西宮。

終了間際に1点は奪われたものの、最後まで冷静さを崩さなかった西宮が、見事なゲームで、またも優勝経験校を打ち破ったのであった…

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試合後、西宮・大路監督は「何もない普通の公立高校ですよ…」と謙遜しながらコメントを続けてくれた。

「昨年優勝校(滝川第二)を出した兵庫県の代表校として恥ずかしい試合はしたくなかった。でも、選手権の直前になって他の代表校と練習試合を行う中で、自分たちの力がそれほど劣ってはいないことにも気がつけた。毎日自分たちは2時間の定められた練習しかしていませんが、その時間の中で選手たちはしっかりと自分の課題を見つけて取り組んでくれました。そして勝つための努力をしてくれました。チームのスローガンとして『努力は奇跡を生む」と掲げていますが、この舞台でそれを実践してくれるとは…

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同点に追いついてロッカールームに戻ってきた選手たちには『リラックスしてあと40分間楽しもう』と伝えて選手を送り出しました。その中で今日の狙いである裏のスペースを突く、そしてスピードのある後藤と、テクニックのある交代出場の渋谷がそれぞれ仕事をしてくれたのも大きかったですね。

表向きは「パスサッカー」なんて言っていますが、さすがに今日の相手(山梨学院)にはそれを出すことは出来ませんでしたが、次も兵庫県代表としてしっかりとした試合を出来ればと思っています。また、関西勢同士の対戦となりますが、どちらが勝ってもベスト8に関西勢が残るわけで、それはそれで近畿勢の活性化に繋がるので(どっちが勝とうと)それはいいことだと思っています」

そして貴重な同点弾、そして相手エースとの激闘を制したキャプテンの帷は「今はまだ勝った実感とかうれしさは出てきませんが、ホテルに帰ってテレビで見たら実感してくると思いますよ」と、いい表情で語ってくれた。

普通の公立高校でも、やる気と集中さえ切らさなければ奇跡は起こせる。市立西宮は、多くの「普通の高校生」に夢を与えてくれたと言えるだろう。さて、あと、約1時間後に彼らの「第二戦」が始まる訳だが、今日も「奇跡」を生み出せるか期待がかかるところでもある。

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第90回高校サッカー選手権・2回戦
市立西宮 3-2 山梨学院大学附属高
[得点者]
18分萱沼、80+3分藤原(山梨学院)
40+1分帷、50・77分後藤(西宮)

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