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2011年12月25日 (日)

長野の「確かな一歩」と次なる一歩

2011年シーズンは、JFL初挑戦にして十分すぎる結果を出した長野パルセイロ。

クラブは当初からスタジアムJ規格整備の問題もあり、JFL初年度から「準加盟登録(申請)→即Jリーグ昇格」という最短コースではなく、まず1年目はこのリーグでも十分にやれるという結果を出すことに専念。チームは結果を出し実力があることを証明し、なおかつファン層を拡大していく。そしてクラブは、Jに上がるために行政や企業とのパイプを太くしていくという、それぞれの役目を負った1年目であったのだ、両者ともそれぞれ答えを出し、チームは2位という成績で今季を終了し、クラブ本体は準加盟申請の準備を進み終え、11月30日に正式に申請書類をJリーグ側に提出し、それぞれが大きな一歩を踏み出したのである。

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さて、今季はJリーグに昇格(新規加盟)した町田ゼルビア、松本山雅を抑えて2位に入った長野パルセイロだが、薩川監督は1年前の市原で行われた2010全国地域リーグ決勝大会・決勝ラウンドでもこのようなコメントを残していくれている。

「いまのメンバーでそのままJFLでやっても通用すると思ってる。アイツらはね、もっと高いレベルでも絶対に出来るから」

パルセイロを見続けてきた人間として、通用することは間違いないと思っていた。しかし、そこまで強気に言い切ってしまって大丈夫か? と少しだけ心配した(薩川流のリップサービスも含まれていた)が、結果的にこのコメントはビッグマウスでもウソでもなんでもなく事実となり、シーズンを通してパルセイロは地域時代をベースにしても十分に戦えることを証明するどころか、逆に他を圧倒する強さまで見せてくれたのである。

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震災の影響もあり、前期7節のジェフリザーブス戦が開幕戦となったが、ホーム、南長野でパルセイロは抜群の破壊力を見せつけていく。4-0と最高のJFLデビューとなったこの試合だが、地域リーグ時代からの選手たちが大いに躍動。新加入の向慎一という「新しい血」がチームの攻撃力にプラスαを加えたことは間違いないが、諏訪、大島、高野、大橋、土橋、栗原、宇野沢、藤田といった地域リーグ時代を知るメンバーがJFL相手に実力を思う存分発揮。開幕戦でスタメンを勝ち取った地域リーグ時代から在籍する8人だが、高野、藤田を除けば全員がかつてJリーグでプレーした経験を持っており、そもそもの「個の力」は決して低くはないのである。また、スタメンから外れていたが、籾谷や佐藤(ともに草津)、加藤(甲府)といった選手も元Jリーガーであり、ベースの力はむしろ他のチームより高いと言えた。

あとはJFLというリーグにどのように慣れていくかということだった。北信越リーグのように、年間のリーグ戦が14試合しかないのとは違い、JFLは北は秋田から南は沖縄までの移動があり、1年をかけてホーム&アウェーを戦うリーグ戦。短距離走と言ってもよかった地域リーグ時代とは違い、持久力や総合力、そして勝負への駆け引きが要求される「マラソン」のようなリーグでもあるのだ。

そして開幕戦で大勝したパルセイロは、ライバルである松本山雅と2戦目で激突するのだが、ここで痛い逆転負けを喫してしまい「JFLの厳しさ」を叩き込まれる。その後は、苦しい試合や苦い思いをする試合を繰り返した結果、順位は上がったり下がったりが続いたのだが、6月4日のゲームがパルセイロにとって大きな転機となっていく。

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この日、歴史と伝統、そして強さを併せ持つHonda FCと対戦したのだが、圧巻の内容(3-0)を見せ、「自分たちの(攻撃的)サッカーは間違ってはいない」と改めてチームは実感。しかし、最高の試合を披露した直後のホームゲーム(武蔵野戦)で、まさかの完封負けという失態を演じてしまい、期待を裏切ることとなってしまう。せっかく自分たちのサッカーに自信を深めたのに、直後の試合で気持ちの緩みが出てしまい、その結果として不甲斐ない試合となってしまったのだが、逆にこの不甲斐ない試合をやってしまったことにより、選手たちにとっていい薬となっていくのだった…

「自分たちのサッカーは間違ってはいない。しかし、現状のままでもいけない」ということを、選手それぞれが自覚したことがチームをいい方向に向かわせ、6月19日の町田戦(アウェー)から波に乗り、この試合から11戦無敗(6勝5分)と勝ち点を順調に積み重ねていき、一時は10位まで下がった順位も2位まで押し上げていく。

しかしだ、JFLというリーグの本当の怖さを知るのはこの後だった…

無敗街道を走り続け、ついに首位を走るSAGAWA SHIGAを完全に射程圏に捉え、優勝も夢ではなくなったパルセイロ。だが、優勝というものを意識しだした10月に入ってからは、金沢、讃岐、びわこ草津に立て続けに敗れてまさかの3連敗。優勝への望みが一気に高まってきたところでの連敗はまさに痛恨であり、これでSAGAWA SHIGAとの直接対決に勝たなければ… という状況となってしまったのだが、さすがに熟成されたサッカーというか、じっくりと相手の出方を見てから「さて、今日はどういうサッカーをしようか?」という流れを作ることが出来るSAGAWAはやはり強かった。直接対決で善戦はしたものの、ともに1点差ゲームで連敗を喫し、JFL1年目にして初優勝は果たせなかった。

結果的に、10月の3連敗が響いてしまい2位に終わったパルセイロ。しかし、上記にあるとおり「十分上でやれる」ということを証明し、来季から本格始動する「Jリーグ挑戦への道」は視界良好になってきたと言えるだろう。

シーズン序盤は「勝ち点60はいきたいね」と語っていた薩川監督。優勝こそ逃したものの当初設定していた目標数値はクリアして最終的には63という数字を残し、Jリーグ昇格を決めた町田ゼルビア、松本山雅より上の順位でフィニッシュしたパルセイロ。

前監督であるバドゥがチームに残した攻撃サッカーを薩川流にアレンジしてJFL昇格を目指したが、シーズン途中の時点でクラブは薩川流だけではなく「現実路線」の必要性を感じて鈴木政一氏(現日体大サッカー部監督、長野パルセイロアドバイザー)を強化部長として招聘し、試合の流れを見極める目を伸ばし、その上でグループワークの重要性をチームに説き、負けないサッカーのやり方を叩き込みチームは地域決勝の時点で完成度の高いチームに変貌。今年に入ってからは、鈴木氏が日体大監督に就任したこともあり、毎試合ベンチに入るということは無くなったが(アドバイザー契約は継続)、すでに鈴木氏の影響力に頼らずとも、選手、そしてチームはそれぞれ成長を遂げていたのである。

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ワールドユースに出場し、J1での試合出場経験もある宇野沢に関しては「やれて当然」という思いはあるが、ボランチの大橋、CBの大島の2人は本当にシーズンを通して大きく成長。ともに元Jリーガー(大橋は仙台、大島は柏)であるが、所属先では思うように成長することが出来ず、出場機会にも恵まれずチームを去り長野の地にたどり着いたが、揃ってこの地で飛躍する機会を得た。

この2人だが、これまではそれぞれのポジションの隣に「先輩」がいた。大橋は土橋、大島には籾谷である。しかし、後半戦に入って土橋も籾谷もケガなどで戦列を離脱する機会が多くなり、彼ら2人が本当の意味でチームを牽引する柱となる必要に迫られていく。そんな状況に対して、大橋も大島も首脳陣だけではなく、サポーターの期待にも応えて試合のたびに安定度が増していき、完全にポジションリーダーの座を確保。

他のチームの昔話になってしまうが、ベルゲル監督が名古屋の監督時代、天皇杯を制覇して「強い名古屋」の先駆けを作ったのだが、あの時も「しっかりとした縦の強さ」があった。DFリーダーにトーレス、MFの要にデュリックス、そして前線にはストイコビッチと… まあ、全て外国人選手であったが、強いチームには真ん中の線に、それぞれいい選手(成長著しい選手)が揃っているものであり、カテゴリーの違いはあるものの、このパルセイロもDFの大島、MFの大橋、FWの宇野沢と核になれる選手がしっかり揃い、これらの選手が年間を通じて活躍できたことにより、チームは躍進出来たのである。

チームの軸となる「縦のライン」が年間を通じて安定したパフォーマンスを見せたことで、大きく崩れることが少なかったパルセイロ。この3人+新加入の向の活躍こそ、躍進の原動力であることは間違いないのだが、それ以外の選手たちの競争がこれまで以上に激しくなったことも見逃せない。

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これまで不動のディフェンスリーダーだった籾谷も、新加入の小川、谷口の台頭によりシーズン当初は出番が減少。そして終盤に入ると小川、籾谷が離脱してしまったのだが、その穴をしっかりと谷口がカバー。また、移籍当初はなかなかJFLのレベルに追いつけていなかった寺田もシーズン途中から頭角を現しだし、同じく新加入の有永と実に素晴らしいポジション争いを展開。宇野沢という絶対的存在がいることで、残された枠は「1」しかないFWのポジションには、藤田、冨岡、平石の3人が争い、その中で藤田、冨岡がしっかり結果を出すなど、どのポジションでも「定位置争い」が激化したことがチーム力向上に繋がっていった。

これが地域リーグ時代であれば、短期決戦ばかりであるため、なかなか「実戦で伸ばす」ということが出来なかったが、年間を通じて戦うリーグ戦を体験出来たからこそ、選手やチームが成長。これこそ、昨年の天皇杯長野県予選決勝で山雅に敗れたときに、薩川監督が語ったことの実現でもあったのである。

「そんなに(選手個々の)力の差はないはずなんだがね… やっぱり年間を通じてやれるリーグ戦にいることの『違い』がでちゃったね。山雅はさ、毎試合ギリギリのところで戦っているし、毎試合が格上との対戦だから選手も成長するんだよね。コイツらさ、みんな上でやれるはずなんだよ。だからね、早く上に上げて上げたいんだよ。上に行けば絶対にやっていて楽しいだろうし、絶対にもっと成長できるはずだから」

このコメントのように、年間を通して戦えるリーグにたどり着いた瞬間から、飛躍的な成長を遂げたパルセイロ。バドゥが蒔いた種、それを育てた薩川監督、そこにアクセントを加えた鈴木氏の教えを選手がしっかり吸収し、実戦の中でそれを体現して成長した選手たち。

町田ゼルビア同様、常に自分たちでアクションを起こしてゲームを展開したパルセイロ。試合のおもしろさという点では、この2チームが今季のJFLを象徴するチームであったと言っても間違いないと感じている(優勝したSAGAWAに関しては、おもしろいと思うより、ソツが無く『勝負強い』チームという印象である)。

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さて、来季の展望の話にも入って行きたいのだが、昇格争いと優勝争いの話から。

町田ゼルビア、松本山雅の2チームがJFLから卒業したことにより、現時点でJ準加盟チームはVファーレン長崎とカマタマーレ讃岐の2チームだけとなっている。しかし、長野パルセイロも11月末に正式に申請を行っており、来シーズン前にはJリーグ側から承認される可能性は高いと見られており、この3チームが昇格を争う対象となってくるだろう。ただし、準加盟は承認されたとしても、Jリーグに上がるための予備審査、そして本審査は別に存在しており、パルセイロに関してはホームである南長野がJ規格を満たすスタジアムではないこと、そして現時点でいつ改修を行うのか? という点が具体的に踏み込まれていない(決定していないため)点から考えると、来年度に本審査までたどり着ける公算は低いと言えるだろう…

また、スタジアム整備の面だけではなく、今季の観客動員も昇格条件の一つでもある平均3000人に届かない2280人となっており、集客という面でももっと積極的な活動を打ち出さなければならない。ただ、パルセイロが昇格するための条件を揃えられるかどうかは別として、来季の優勝争いに関しては門番筆頭のSAGAWA SHIGAを中心に、長野、長崎といった3強の間で争われる可能性が高いと言えるだろう。

観客動員に関してはクラブの努力だけではなく、選手の頑張りや勝つこと、そして魅せること、喜ばせることでどうにでも転がすことが出来るが、スタジアムの整備だけは選手が頑張ってもどうにもならない話であり、こちらの条件をクリアするためには、クラブ首脳がどこまで行政、地域、そして政治に働きかけができるかであり、選手の頑張り同様、クラブ首脳の「政治力」にも注目したいところである。

さてそんな中で、「現場」であるチームは来季に向けて新陳代謝を行おうとしている。

すでにどのクラブでも戦力外となった選手の退団をリリースしているが、パルセイロも同様に8人の選手が契約満了となりチームを離れることとなった。その内訳だがチームリーダーとしてこれまで4年間チームを牽引してきた土橋宏由樹、現在のチームでもっと在籍年数が長い(6年)佐藤大典と塚本翔平、北信越リーグ時代を知る麻生瞬、そして今季新加入としてチームに入ってきた谷口、浦島、富所、堀之内である。

正直、新加入で入ってきた4選手が退団となることは驚きであった。富所については間違いなくテクニックという面でチーム1であるはずなのだが、このチームはグループで連動してナンボのチームである。しかし、その連動に1年かかっても馴染めなかったことから考えれば、致し方のないところであろうか…

また、こちらも新加入の谷口、浦島だが、この2人に関してはややもったいないなあ… という気も。シーズン終盤に入って、守備ラインで籾谷・小川の穴をしっかり埋めた谷口、浦島は本来のボランチだけではなく攻撃的ポジションをこなすなど、チーム事情に合わせていろいろなポジションで活躍。そんな中での契約満了は寂しいところでもあるが、逆に考えれば、クラブはそれ以上の選手を連れてくるという決意の表れと考えていいかも知れない。

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そしてこれまでチームを支え続けてきたベテランの土橋、佐藤についてだが、チームの歴史の中で常に主力として活躍してきた功労者であり、ここで契約満了となりチームから去るのは本当に残念である。ただ、土橋にしても大典にしても、ケガで満足にプレー出来なかった時期もあり、年齢的から考えても「やむを得ない」といったところであろうか…

土橋は松本山雅から2007シーズンをもって契約満了を通達され、クラブからは指導者としてのオファーを受けた。しかし、現役として続けたいという思いが「緑からオレンジ」という禁断の移籍を決断することとなる。そこからはベテランらしい読みとゲームメークでチームを牽引。正直、2008年の「悪夢の本城」や2009年の「市原決戦」など、大事な一戦で敗戦が続き、土橋はやめてしまうのでは… と思ったこともある。しかし、もう一度高いレベルでやりたいという思いが彼を突き動かしてきた。

佐藤大典についてだが、彼がこのチームに移籍したからこそ、長野エルザというチームを私は知ることが出来た。2005年、ザスパ草津の下部組織から昇格し、シーズン終盤にJリーガーとしてデビューした大典。当時の監督であった手塚氏は「若手を使って来年に種を残したい」という思いから、この大典や、現在も草津で主力として活躍する櫻田、後藤や、長崎で現役を続ける杉山などをレギュラーとして起用。そんなこともあり大典や杉山も来季の契約が結ばれるかと思われたが、次期監督の植木さんは彼らを戦力とは判断しなかった。

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チームを離れた大典は練習試合で対戦していた長野エルザへ活躍の場を移し、移籍後は即レギュラーを獲得。現在、長崎で指揮をとる佐野監督は「大典はいいFWだよ。本当はもっと伸ばして上げたかったし、オレが監督だったら絶対に使いたかった…」とコメントするほどその才能を買っていた。だからこそ、大典には1年でも早くJFLでプレーして欲しかったし、再びJリーグでプレーして欲しかった。しかし、上記にあるとおり、パルセイロは昇格のチャンスを逃し続けてしまい、せっかくJFLに昇格した時には残念ながらピークを過ぎてしまった感もある…

もっと早く上がっていれば… という思いは強い。しかし、すべての選手が思い通りに事が運ぶわけでもない。本当はもう一度Jの舞台に立つ大典を見たかったが、今はとにかく「お疲れ様」という言葉しか出てこない。また、大典同様、エルザ時代を知る塚本翔平も退団ということで、ついに今のチームから「長野エルザ」を知る選手がいなくなってしまった。

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これも時代の流れなのかも知れない。しかし、どのクラブも「象徴」が替わるものでもある。今年、土橋、大典、塚本といったベテランがチームを去ったが、宇野沢、大橋、大島といった選手たちが新しい象徴となり、これまで以上の「歴史」を作り上げて欲しいものである。そして1日でもはやく、「先」を走るライバルに追いついて欲しいと願うところだ。

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