« JFLにおける卒業と新加入 | トップページ | 松本山雅を強くしたもの »

2011年12月11日 (日)

また一時代が終わったツエーゲン

ジーコジャパンの欧州遠征で一躍時の人となり、ワールドカップ(2006年ドイツ大会)に向けていよいよエースが覚醒か? とまで言われた久保竜彦。そんな彼も、横浜Fマリノス退団後は思うような活躍を見せることが出来ず、2010年からはJFLのツエーゲン金沢に移籍。旧知の仲でもある上野展裕監督の下で「ドラゴン復活」なるか? と期待された。昨年こそチーム最多となる9得点を挙げたが、今年は最終節前までに6得点のみと昨年を下回る数字しか残せてはおらず、チームの財政状況、来季展望などの点から今後の契約は結ばれないことがすでにクラブから発表されている。

Img_0112

しかし、久保本人は「まだやりたい」とコメントしており、現役続行を示唆。もし「やりたい」というのであれば、金沢の久保としてのラストマッチとなる横河武蔵野戦はどうしても見ておきたい。そんな思いもあり夢の島へ向かった。

------------------------------------

さて、この試合でチームを去ることとなるのは久保竜彦だけではなく、上野展裕監督も同様であった。

2006年からツエーゲン金沢と名称を変え、松本山雅、長野パルセイロ(当時はエルザ)とともに北信越リーグからJリーグを目指したが、3年連続でJFL昇格に失敗。特に2008年の池田司信監督が退任すると、多くの選手がチームを離れることとなりチーム存続の危機にまで立たされた。しかし、新たに就任した上野監督の下、一度はJFL昇格のチャンス(北信越3位)を失ったが、「内容より勝つことが大事」という結果だけを見据えたサッカーを徹底させ、ラストチャンスの舞台であった全社で準優勝を勝ち取り見事に挑戦権を獲得。そして勝負強いサッカーは地域決勝でも発揮され、最終的に3位に滑り込みFC刈谷との入替戦を迎える。この決戦でも、1勝1分と勝ち越すことに成功した金沢はついにJFLへの舞台へとたどり着いた。

Img_4719

あの刈谷でのしぶといゲームは今でも忘れることは出来ない。
2試合を通じて、ゲームを動かしていたのは紛れもなく刈谷であった。しかし、徹底したマーク、そして4-1-4-1システムから繰り出される組織的守備と鋭いカウンターで刈谷を撃破。勝ちきれないチーム、ここぞという場面でいつも山雅、パルセイロに負けていた金沢だが、上野監督の「絶対に勝つ」という指導が浸透してからは大きく変貌し、ひ弱なチームから一撃で相手を沈めるスナイパーのようなチームへと姿を変えていた。

あの時の戦いは、負けてしまえばすべてが「無」になってしまう。だからこそ、監督自身がやりたいサッカー、そして選手が好きな攻撃的な姿勢、さらにはサポーターが喜ぶような魅力的なサッカーというのをすべて放棄して現実路線を突き進むしかなかった金沢。だが、上野監督もJFL昇格後は「次はJリーグ」という目標となったからこそ、引きこもった戦術だけではなく、自分たちで仕掛けるサッカーを植え付けていかなければという考え方を持ってこの2年間を戦ってきた。

そんな中で、元々培われてきた守備力にプラスして平林、古部、石舘、菅野といった攻撃陣も結果を出し、一時は首位を争う位置まで登り詰めたが、6月の時点で選手には非情ともいえる通告がなされていた。

「今年もそうだが、来年もJリーグに上がれない…」

上野監督だけではなく、選手全員がJリーグを目指してきた。しかし、クラブ首脳から「来年も無理」と言われてしまい、その時点で心が折れてしまった選手もいたと上野監督は話す。だが、監督はなんとか選手のモチベーションをコントロールしてJに行くということだけではなく、「金沢でサッカーをする意義」を唱え続けてこの最終節までやってきたのである。

------------------------------------

前置きが長くなってしまったが試合の方に入っていこう。

[武蔵野スタメン]
ーーー山下ーー小林ーーー
ー高松ーーーーーーー林ー
ーーー岩田ーー桜井ーーー
小山ー伊澤ーー瀬田ー鹿野
ーーーーー飯塚ーーーーー

[金沢スタメン]
ーーー平林ーー久保ーーー
ー古部ーーーーーー菅野ー
ーーー阿部ーー本田ーーー
斎藤ー諸江ーーマイケルー滝川
ーーーーー大橋ーーーーー

金沢でのラストマッチとなる久保はスタメンで出場したが、試合は平林の強烈な一撃からスタートしていく。前半4分、中央で相手プレーヤーと平林が相手DFとこぼれ球の奪い合いとなり、これを奪った平林が強引なドリブル突破からシュート! これがいきなり決まって金沢が早い時間帯で先制。

Img_0068

この得点で金沢がいい流れを掴むかと思われたが、どうしても攻撃が「点」から「線」になっていかない。その原因としては久保の出来が大きく絡んでいた。2トップの一角である平林は豊富な運動量で前へ後ろへと動いてチャンスを広げていったのに対して、久保は体のキレが悪くほとんどボールに触ることなく時間が進んでいく。言い方が悪いが、11人でサッカーをしている武蔵野に対して、金沢は10人でやっているようなものであった。時たま久保にボールが入っても、必死さを全面に出してくる武蔵野DFの速い囲みの前にボールをキープすることもままならず、もどかしい時間が続いていくのだ。

さてこの日の武蔵野だが、最終戦ということもあり、とにかく気合いの入り方が違っていた。

実は今季、武蔵野はホームゲームで一度も勝利していないのである。今季は震災の影響(節電対策)から9月まで夜間練習ができない時期が続き、選手それぞれが仕事に就く前の早朝1時間しか全体練習が出来ない日々となってしまい、他チームに比べて連携不足、調整不足が如実よなってしまい下位に低迷し続ける1年となってしまった。しかし、10月に入って夜間練習が復活するとチームは徐々に調子を取り戻し、なんとか自力残留となる順位にまで再び浮上。そして迎えた最終戦でなんとか多くのファンの前で勝利を見せたかったのである。

そんな選手それぞれの必死な思いが、1点のビハインドを跳ね返していく。立ち上がりに平林の個人技で失点してしまったが、それ以降は全体の出足も良く、金沢の思い通りにはさせない展開に持ち込んでいく。さらに武蔵野はこれまでの「横に繋いで展開!」というサッカーではなく、シンプルに縦に早く入れて走らせる戦術で金沢守備陣の隙をどんどん突いていきチャンスを作っていく。

ここで問題だったのがやはり久保の動きであった。平林は前から積極的にチェイスしていくが、久保にその動きは期待出来ない。そうなると、ボランチの本田か阿部が前に出て相手選手をケアしていかなければいけなくなってしまい、本来はボックス型の4-4-2であったのだが、阿部が久保のポジションまで守備を見ることから実質的にダイヤモンド型の中盤となり、本田のワンボランチのような形となってしまう。

そして武蔵野は縦に速いボールを入れ、手薄になっている中盤の底にボールを集めてチャンスを広げていくのだ。

ゴール前で決定的な仕事が出来る久保の力は活かしたい。しかし、今の久保の運動量では前線の守備ではまったく期待出来ない。攻撃力(決定力)を取るか、総合的判断を取るのかという判断のなか、上野監督は常に久保の決定力に期待を込めたのだが、この日の出来(キレ)はあまりにも悪すぎであり、久保自身もまったく試合に乗ることが出来ていなかった…

Img_0293

1点は先制したものの、不安要素しかなかった金沢。それに対して、シンプルかつ早い攻撃でチャンスを築き上げる武蔵野。15分以降は武蔵野の一方的な展開へと変わっていく。そして17分、ゴール前の混戦から山下がオーバーヘッド! 完全に枠を捉えた一撃であり決まったか! と思われたが大橋のスーパーセーブが飛び出してここはCKへなんとか逃れる。さらに直後の18分にも左サイドの縦パスから高松が抜け出して、ゴール前に絶妙なボールを入れると今度は桜井が飛び込んで頭で狙い、今度こそ同点か? と思われたがまたも大橋が神セーブ。さらにこのこぼれ球に山下が反応してシュート。これも枠を捉えたがDFがゴールに入ってギリギリのところでカット。

怒濤の攻撃を見せる武蔵野。これまでの武蔵野といえば、サイドに展開して繋いで繋いでとポゼッション率は高いのだが、ゴール前になると沈黙してしまい、シュートを打てず終いという場面が多かった。しかしこの日は上記にあるとおり、ひたむきさ、必死さを全面に出し、シンプルに前に運び、とにかくシュートを打とうという気持ちを全面に押し出すサッカーで相手を圧倒。

Img_0203

そして、その必死さがついに結果となって現れることとなる。33分、小林のシュートを再びGK大橋がセーブ。しかしこのこぼれ球に山下がまたも反応。難しい体勢だったが、ボレーでねじ込んで今度こそこれが決まってついに武蔵野が同点に追いつく。その後も武蔵野は金沢陣内に攻め込み、39分には小林、42分には岩田が持ち込んでシュートと完全にペースを掴んで前半を折り返す。

------------------------------------

さて後半だが、やっぱり…という久保はHTで交代。あの出来では代えられても仕方がないだろうと思ったが、試合後に監督と本人に話しを伺うと「自分から交替を申し出た」とのことだった。自分としてはやり続けたいという気持ちはある。しかし、どうにも試合の流れに乗りきれない自分の不甲斐なさ、そしてチームのために自ら交代を申し出た久保。ラストゲームということもあり、本来は最後まで久保を使いたかった上野監督だが、「わかった」と一言だけ答えて久保をベンチに下げたのである。

そして後半はサイドの古部が平林と2トップを組み、古部の位置に山道を投入。前半は久保の運動量がないため、いいように武蔵野にやられてしまった金沢だが、前線の2人からプレスがかかるようになると全体が安定していく。しかし、その安定したと思われた直後に、金沢は手痛い一撃を浴びてしまうのだ。前からのプレスが入り、全体的にラインの押し上げがスムーズになった後半の金沢だが、武蔵野はしたたたかに高くなった相手最終ラインの裏を虎視眈々と狙っていた。61分、鹿野からのクロスに小林が中で競り合い、落としたところを山下が左足で蹴り込み武蔵野が勝ち越し。

Img_0369

だが、金沢としても「負け」で今季最終戦を終わることは出来ない。

逆転を許した直後、上野監督はすぐさま動きを見せ、阿部に代わって井上を投入。そしてこの交代により2トップを平林ー菅野に変更し、再び古部をサイドに配置し、井上を右サイドに起き、山道と本田のボランチというような形に変えていく。

より高い位置で勝負出来るようになった菅野は、前半以上に仕掛ける場面が増え、金沢が武蔵野ゴールに迫るシーンが増えだしていくと、74分、菅野の突破からチャンスを作ると武蔵野DFは対応仕切れず、最後はあっさり古部に決められて試合は2-2と振り出しに。しかし粘る武蔵野はチャンスの数は少ないものの、鋭いカウンターで決定機を作り出し同点にされた5分後の79分に、小林の右からのクロスに中でなんとSBの鹿野が合わせて再び逆転。

これで武蔵野は2試合連続で3得点。これまで、自分たちが築き上げてきたサイド攻撃にこだわってきたが、ラストに来て「シンプルに攻める」という形が見事に結果を出し、最後の最後でやっとホーム初勝利となるかと思われた。しかし、選手やサポーターの願いは菅野のスーパーゴールの前に打ち砕かれることとなる…

Img_0462

84分、相手ボールを奪った菅野がそのままドリブルで突進。「シュートコースが見えたので思い切って行きました」と試合後に話してくれたとおり、豪快に放った一撃は飯塚も触ることが出来ないほど鋭いシュートとなり、武蔵野ゴールにそのまま突き刺さり金沢が再び同点に追いつく。

正直、得点力の乏しい武蔵野が絡む試合ということもあり、ロースコアの試合を予想したが、まさかまさかのゴールラッシュで内容的には非常におもしろみのあるゲームとなっていく。最後は両者ともドローを狙うのではなく、意地でも「勝つ」という姿勢を全面に出し、ほとんどノーガードの撃ち合いとなっていき、両者ともカウンターの応酬という展開になり、ロスタイム2分に金沢は菅野のシュートで決定機を迎え、武蔵野は3分にCKのチャンスから途中交代の永露がシュートを放ち、こちらも決定機を迎えるが再び大橋が好セーブを見せ得点を与えず、最後まで打ち合いとなった試合は3-3のドローで終了した。

ここからのゲームは前がかりになって攻め続ける金沢、相手の裏のスペースを狙ったカウンターで攻める武蔵野と、ほとんどノーガードの撃ち合いのような試合となっていく。

------------------------------------

試合後、金沢・上野監督に話を伺い、この3年間を簡単だがこのようにまとめてくれた。

「まず、とにかく今は残念という気持ちが強いです。

シーズン前、選手には勝ってJリーグへ行こうと声を掛けて始動しました。しかし、いろいろなゴタゴタがあり、成績に関係なくその目標がシーズン途中にして達成することが出来なくなってしまい、選手のモチベーションを維持することに苦労する年となってしまいました。でも、シーズン途中には暫定でも首位に立つことが出来たし、選手たちにも『金沢でサッカーをしつづけることに意義(意志)をしっかりもとう』と言い続けてここまでやってきました。今、シーズンを終わった時点では、選手たちに対しては『良くやってくれた』と思っています。

Img_0055

ただ、最後に来てメンタルの部分で選手をコントロールしきれなくなってしまった部分があり、勝ちきれず順位を下げてしまったことは悔やまれます。だから選手たちには、今日の試合は『来年に繋げていくために非常に大切な試合。だからしっかり勝って終わろう」と試合前のミーティングで伝えてピッチに送り出しましたが、最後にしっかり意地は見せてくれたのではないでしょうか?

このチームはまだまだ若い選手が多く、どう、指導していくか難しいところでもありました。厳しいやり方一辺倒ではダメだし、緩くやってしまってもダメ。今年はシーズンを通しても指導者として非常にバランスには気を遣いましたね。

また、3年前は絶対にJFLに上がらなければ行けないという状況もあり、窮屈なサッカーをしていましたが、そんなサッカーでは上(Jリーグ)では通用しないと感じていたので、攻撃的なサッカーを目指したいと考えていました。JFL1年目はリーグのスピードに慣れるためにも守備の整備をまずは主眼においていましたが、今年は守備からいい攻撃に繋げることをポイントとしていましたが、私が指揮した3年間で将来に繋げるものは残せたかな? とも思っています。どれだけ今の選手がチームに残るかは私もわかりませんが、若い選手が多いので、このままチームのベースを残して成長していってほしいですね。

あと、久保に関しては厳しい言い方をすれば(この試合だけではなく)、もっとやって欲しかったなという気持ちは強いです。彼がもっと出来る選手であることはよく知っているからこそ、この2年間の成績は私も満足していないし、本人も満足していない。だから現役続行を希望しているんでしょうね」

Img_0544


そして試合後の久保は一言だけ「やれるところがあればまだやりたい気持ちはあります」とだけ答えてくれた。

------------------------------------

JFLに昇格してからは、北信越でしのぎを削ったライバルたちの後塵を拝してしまった金沢。JFL昇格とともにいち早く準会員申請に着手し、クラブ、行政、地元、ファンと連動してクラブ規模を大きくしていった山雅。早急な準会員申請は無理と判断し、まずはJFLでしっかり戦えるチーム作りに着手し、その間で地元や行政と連携して準会員申請に向けて準備していきたパルセイロ。そして金沢は早急に着手するわけでもなく、明確なプランを打ち出せないまま2年の時が過ぎてしまい、そして今は2012年での準会員申請も見送ることとなってしまった。

これにより、このチームでJリーグを目指そうとしていた若い選手たちのモチベーションが大きく下がってしまったことは否定できないし、現時点でどれだけこのチームに残る選手、去る選手が出るのか不明な部分も多い。まさに上野監督が就任するまえの2008年シーズンの終わりのような、暗い話題ばかりとなってしまった今のツエーゲン金沢。

Img_4195

しかし、思い出してみれば、3年前も崖っぷちの状況から一からチームを作り直してJFL昇格を勝ち取った経験もある。すでにアビスパ福岡のヘッドコーチを経験した森下仁志氏が監督にリストアップされているようで、着々と新体制作りもスタートしている金沢。果たして噂される森下新監督の下、金沢はJリーグという目標の地までたどり着けるだろうか?

北信越4強時代を築いた一角の一つ、山雅は来期からJ2に戦いの舞台を移し、パルセイロは本格的にJリーグ昇格を目指した戦いとなり、かつてのライバルたちは着実に階段を上り詰めているが、金沢がかつてのライバルたちに待ったを掛けることができるかにも注目していきたい。

すいません。長くなってしまったので、横河武蔵野・依田監督の1年間の総括はまた別の機会で。

とりあえず、上野監督には本当にお疲れ様ですと言いたい(実際にそう声を掛けましたが…)ところ。やはり就任1年目の千葉で行われた全社→地域決勝→入れ替え戦という一連の戦いは非常に印象深いものであり、あの大会を勝ち抜いてチームを昇格させたことは紛れもない実績であり、上野監督としても胸を張っていいものだと思う。

そして上野監督は「この先、どうなるかわかりませんよ」と、来期以降の活躍の場についてははぐらかしたが、いくつかのクラブから首脳陣として入閣してほしいというオファーは認めた上野監督。金沢の「その先」も気になるところだが、上野展裕氏の「その先」も気になるし、ドラゴンこと久保竜彦に次の所属先が決まることを切に願いところでもある。

------------------------------------

2011JFL 前期第1節分 @夢の島
横河武蔵野 3-3 ツエーゲン金沢
[得点者]
33・62分山下、79分鹿野(武蔵野)
5分平林、74分古部、84分菅野(金沢)
[警告]
56分伊澤(武蔵野)
59分阿部(金沢)

[ゲームスタッツ]
シュート数:武蔵野21、金沢9
ゴールキック:武蔵野8、金沢10
コーナーキック:武蔵野5、金沢7
直接FK:武蔵野10、金沢10
オフサイド:武蔵野1、金沢6
PK:武蔵野0、金沢0

« JFLにおける卒業と新加入 | トップページ | 松本山雅を強くしたもの »

JFL」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/176307/53459036

この記事へのトラックバック一覧です: また一時代が終わったツエーゲン:

« JFLにおける卒業と新加入 | トップページ | 松本山雅を強くしたもの »