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2011年1月12日 (水)

壁を乗り越えた末の栄冠

第89回高校サッカー選手権
決勝戦 @国立競技場
久御山 3-5 滝川第二
[得点者]
57分林、84分安川、86分坂本(久御山)
24・59分浜口、40・90+5分樋口、54分本城

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前半を終わってスコアは0-2で滝二がリード。

しかし、試合の内容が良かったのは負けている久御山であり、前半戦のメモを読み返しているうちに、9月4日に行われた全日本ユース、グループリーグ初戦の流経大柏 vs 滝川第二戦終了後の本田裕一郎監督の言葉を思い出してしまった…

「ワールドカップ効果なのかわからないけれど、あの大会以降、日本代表のようにガッチリ守るチームが増えましたよね。内容が悪くても、とりあえず後ろがゼロに抑えていればまずはよし。さらには得点能力の高い子がいれば、その子を活かすサッカーを徹底する。前に優秀な子がいるチームなんかは、『ウラに1本』だけで点をどんどん取って行ってしまいますからね…」

勝っているものの、決して「ベスト」と呼べる内容ではなかった前半の滝二。だが、途中から修正してくるところはさすがであり、その修正能力の高さがあるからこそ、ここまで勝ち切れてきたんだと実感させられた決勝戦。

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ということで、決勝戦を振り返っていきたいと思います。

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[滝川第二スタメン]
ーーー浜口ー樋口ーーー
ー白岩ーーーーー本城ー
ーーー谷口ー香川ーーー
平田ー亀岡ー土師ー濱田
ーーーー中尾ーーーーー

[久御山スタメン]
坂本ーー安川ーーー鍋野
ーーーーー林ーーーーー
ーー足立ーーー二上ーー
山田ー松下ー山本ー東松
ーーーー絹傘ーーーーー

キャプテン山本は決勝の舞台に立つことが出来たが、彼とCBを組む塚本が今度は出場停止となり、またもベストな形の最終ラインを組めなかった久御山。しかし、序盤は持ち味であるドリブル突破とショートパスの組み立てからペースを掴んでいく。

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開始直後、ボランチ足立がボールを奪い、自慢のパスサッカーで滝二陣内に進入。いきなりCKのチャンスを掴むと、続く4分には鍋野が素晴らしい飛び出しを見せ、5分にも安川がシュートを放ち、立て続けに滝二ゴールに迫っていく。さらには8分、CKのチャンスから山本、足立が連続してシュートを放つもGKとDFが体を張ってブロック。最後はこぼれ球を再び鍋野がシュートするも、枠を外してしまう。

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注意していたはずの「久御山の崩し」。流経柏のようにハイプレススタイルではない滝二にとって、序盤のラッシュをどう「いなす」か注目していたのだが、ピッチ上ではどうしていいのか迷ったままであり、その結果として受け身になり相手の猛攻に晒されてしまう。これまでの決勝戦の結果でもはっきり出ているが、先制点を奪ったチームの勝率は激しく高い。決勝という舞台ゆえに、普段以上のプレッシャーがかかるため、先制点は何よりも重要になってくるのだが、久御山としてはこの序盤のラッシュで点を奪えなかったのは痛かったし、滝二としては抑えられたことが今後の展開を大きく分けていくこととなる。

22分、久御山は足立ー鍋野の連携でチャンスを掴むのだが、途中でカットされてしまいカウンターからピンチを招いてしまう。奪ったら素速くサイドに展開するのが滝二の持ち味であり、この場面では樋口が左サイドに開き、ここでボールを受けると中へクロス。中央で待っていた本城がポストとなり、最後は浜口がDFを背負いながらもシュートを放ち、ワンチャンスを見事に活かして先制点を奪ってみせる。

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ここまで、攻勢にでていたのは久御山であったが、「決定力」の違いを見せつけた滝二が先制。しかし、久御山には残された時間は十分残っていることもあり、焦ることなく足立、二上のボランチコンビのボールキープからゲームを作ってゴールを目指していく。だが、前半30分を過ぎると徐々に試合の流れは変わりだす。前半の序盤から中盤にかけては、後ろからのパスが通っていた久御山だが、滝二のボランチ、香川、谷口が久御山のテンポに慣れだしたことから、パスカットする機会が増え出していく。

最終ラインからの組み立てが出来る久御山に対して、滝二は後ろから組み立てていくことは、それほど上手くはない。よって、滝二の生命線とは、谷口、香川の位置でいかにボールを奪えるか、またはセカンドボールを拾えるかと言うことに掛かってくる。運動量と展開力に長けた2人から、いかにいい展開が生まれるかで、滝二の攻撃のリズムは変わってくるのだが、やっと「心臓部」が目を覚ますことで、ダブルブルドーザーだけではなく、両サイドの本城、白岩も「活きた」攻撃を繰り出せるようになる。

ボランチが高い位置でボールを奪って、すぐにサイドに展開。両サイドがボールを持った瞬間から、ボールが入ってくることを信じて2トップは動き出す。確かに、序盤はプレスを前から掛けていくのか、ブロックを固めて相手の動きを止めるのか中途半端となり、なかなかボールを奪えずに苦しい時間帯が多かったのだが、高い位置でボールを奪えるようになれば、決定力の高いFWがいる滝二の「思うような展開」が生まれてくる。

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そして39分、またも一瞬の隙から縦に速い展開が入ると、今度は樋口が貴重な追加点あげ、前半のうちに2点のリードを奪い、自身の得点記録としても、立正大淞南の加藤と並ぶ7得点目をマークする。

内容的には、お世辞でも「良かった」と言えなかった滝二。しかし、それでも2点を奪ってしまうところはさすがであり、おもわず「本田監督の言葉」を思い出してしまう瞬間でもあった。

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さて後半だが、中途半端となってしまった守備面を、しっかりブロックを作って対応することを確認してピッチ立つ。すると、前半のような迷いの消えた滝二は本来の姿を完全に取り戻す。47分に樋口がドリブル突破からシュートを放つと、続く48分にも濱田のクロスに樋口が頭で合わせて3点目を狙っていく。そして53分、右から入ったクロスによりゴール前で混戦となり、後ろから入ってきた本城が右足アウトで見事に流し込んで3点目を奪う。

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これで3-0となり、誰もが勝負ありかと思われた。しかし、久御山の松本監督も、選手も全く諦めていなかった。リスタート前に円陣を組み直し、キャプテンの山本は「まだ時間があるし、1点とれば流れが変わるからまだわからない。絶対諦めずに行こう」と檄を飛ばすと、選手は息を吹き返し56分に坂本の放ったシュートのこぼれ球を林が押し込んで反撃体勢に入る。

だが、夏のインターハイ決勝で、1点リードを保ったまま終盤に突入し、優勝を確信したあとから市立船橋に追いつかれて、延長戦で3点を奪われて試合をひっくり返された苦い経験を持つ滝二は、守りを固めるのではなく4点目を果敢に狙っていく。1点取り返して意気の上がる久御山だったが、前がかりになっていた最終ラインをのウラを狙われ続け、59分に香川から出た縦パス1本に浜口が反応し、これを見事に決め再び3点差となる。

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その後も、ポゼッション率でこそ久御山が上回るものの、奪ってから素速く背後のスペースを突く高速カウンターでチャンスの山を築き上げていく滝二。61分、68分、74分にも決定機を迎えるのだが、GK絹傘の必死のセーブもありスコアは動かない。

しかし、この日も準決勝同様に80分を過ぎた辺りから運動量が一気に低下していく滝二。80分にFKを与えたことを皮切りに、81分に坂本がシュートを放ち、一連の攻撃からCKを奪い攻勢を強める久御山。84分に坂本のドリブル突破から最後は安川が押し込んで2点差。さらに直後の84分、疲れの見える山田に替え中野を投入し、攻撃のギアをさらに加速させ、86分には安川ー坂本の連携から3点目を奪い、ついに1点差に詰め寄る。

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その後も攻め続ける久御山。電光掲示板の時間表示が90分となろうとしたときに、ゴール前に攻め込んだ久御山の選手と接触し、GK中尾をが負傷して一時試合は中断。それと同時に90分が過ぎ、AdditionalTimeが「5分」と表示されざわめきが起こる。中尾が治療していることもあり、実際には5分以上時間があることは確実であり、場内には「追いつくかも…」という雰囲気も流れ出す。

だが、そんな思いを打ち破ったのは、またも「ダブルブルドーザー」であった。

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残り時間がどれだけあるかわかない時間帯に、樋口はゴール前で相手ボールをカット。そしてGKまで抜き去ってからシュート。ボールはゴールに吸い込まれていき、試合を決定づける5点目を奪い、チームに勝利、そして優勝をもたらし、さらには単独得点王となる、大会8得点目を記録して決勝戦の幕は閉じた。

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かつて、全日本ユース(2006年大会)で優勝した経験を持つ滝川第二だが、インターハイ、選手権と言った高体連の大会での優勝はなく、冬の選手権は今回を含めて16回出場し、そのうち3度準決勝まで進んでいるが、その先までは勝ち進めていなかった。そして今年は夏のインターハイで初めて決勝まで進出。だが、決勝では詰めの甘さと精神的な弱さから優勝を目前で逃してしまい、立て直しを誓った全日本ユース初戦では、流経柏に1-7と屈辱的大敗を喫するなど、その道のりは決して平坦ではなかった。

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兵庫県予選決勝の報徳学園戦では、谷口や浜口、本城が口を揃えて「みんなが勝手なプレーに走ってしまい、チームがばらばらとなり最悪なゲームをしてしまった」と振り返るほどの大苦戦を経験。PK戦の末、やっとのことで本大会に出場してきたが、その時はさすがに栫(かこい)監督も怒りを露わにし、渇を入れ直したがこれがチームの結束を固めることとなる。

新チーム結成時に、今年の一文字を「志」と決めたのだが、冬の選手権出場権を得るまでは「十一人の心」は一つになっていなかった。しかし浜口を中心に、県大会の内容を振り返ることでチームに本当の和が生まれ、やっとスローガンどおり「志」という一文字に変わっていった。大会前、「ダブルブルドーザー」ばかり注目されてきた滝二だが、2人の存在以上に、彼らを活かそうとする9人の力が想像以上に大きかったのである。

流経柏のような、ハイプレスサッカーをする訳でもない。アーセナルに入団できるほどの逸材がいる訳でもない(後に樋口は清水入団が決定するが…)。さらには柴崎岳のような、将来を嘱望される司令塔がいる訳でもない。今年の滝川第二とは、自分たちが出来るサッカーをしっかり理解し、それを表現したまでに過ぎないのだが、一発勝負の大舞台で「自分たちらしさ」を出し切ることは、実は非常に難しいことであり、それが出来たからこそ優勝という栄冠にたどり着くことが出来た。

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ピンチが続いても、なんとか耐えられる技術とメンタルを身につけた滝二。夏から冬にかけての一番の成長といえば、「守りきる」という意識から、「1点取られたら2点取り返す」という攻めの意識を全員が持てるようになったこと。さらには「個」の力で勝つのではなく「和を持って征す」という言葉のように、チーム一丸となって戦う重要性を改めて理解できたことは、非常に大きかったのである。

波戸康広、加地亮、岡崎慎司などの日本代表選手から、韓国代表経験のある朴康造など、名だたる選手を輩出しているの滝二だが、不思議なまでに選手権優勝とは縁がなかった。さらに2006年度をもって、長らく滝二を指導してきた黒田和生氏が退職し、これまでコーチとして指導を行っていた栫裕保氏が監督に就任。しかし、その翌年は選手権出場権を得ることが出来ず、「滝二は終わった」とまで言われた。それに対して栫監督は「そんなことないぞ」と思いながら闘志を燃やし、過去も今も、滝二のサッカーは「何も変わりはない」と信じてこれまでやってきた。

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偉大なる先輩たちや、名将とよばれた黒田氏でもなし得なかった、選手権優勝をついに果たした今年のチーム。選手たちは先輩たちが出来なかった優勝を実現し、歴史を塗り替えることに成功し、そして監督自身も「ないです」と否定するかも知れないが、「黒田監督」からの呪縛から解放されたのではないだろうか? しかし、「勝った(優勝した)からと言って、それでOKだと思ってはいない」と試合後に語ってくれた栫監督。

すでに「次」を見据えており、「高校生として大切なことを(1、2年生に)もう一度しっかり指導していきたい」と語る。

偉大なる先輩を超え、黒田監督の影からも解放された滝二。しかしこれからは、ディフェンディングチャンピオンとして「追われる立場」となるのだが、新時代に突入した滝二であれば、そのプレッシャーをしっかり乗り越えることは出来るはず。また、84回以降、毎年初優勝校が生まれている冬の選手権だが、79、80回を制した国見以来、連覇を達成した学校は現れてはいないのだが、滝二は戦後の大会において、7番目の連覇達成高(過去の連覇達成高:浦和、浦和市立、藤枝東、浦和南、帝京、東福岡)となれるのかにも注目していきたい。

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